夜中にいきなり、ケータイが鳴り出す。 「うわっ」 物思いに耽っていた俺は、凄く驚いてしまった。 慌ててケータイを取って、液晶を見ずに通話ボタンを押した。 画面なんか見なくても、この着信音に設定しているのは一人しかいないから。 「あ、啓太?今大丈夫か?」 「和希…」 先ほどまで、想っていた人の声。 居間でカウントダウンをするという家族から離れ、俺は部屋に一人でいた。 年明けというときに和希と一緒にいれないことが寂しくて、家族でカウントダウンという気分にはなれなかったのだ。 分ってる。和希は仕事が忙しいんだから、仕方がないんだ。 理解は出来ているのだ。 大丈夫だよ、と答えると、本当にすまなそうな声が返ってきた。 「本っ当にごめんな?折角の年明けなのに一緒にいれなくて」 「ううん。仕方ないよ、和希仕事忙しいんだろ?電話してて大丈夫なのか?」 寂しい、なんて言ったら和希の仕事の迷惑になるから、絶対に言わない。 言った途端に、彼なら仕事を中断してでも俺のところに来てくれるだろう。だけど俺は、そんなの嫌だ。 和希の負担になりたくなくて、出来る限り明るい声を出す。 「とりあえず今は休憩中だから俺の方は大丈夫。本当にごめんな?この埋め合わせは絶対するから」 「いいって。大丈夫だよ。俺としては、今電話してくれただけでも嬉しい」 今日は和希と逢うことも話すことも出来ないまま終わってしまうのだと思っていたのに、彼から電話をかけてくれたのだ。 きっとこの時間を作るために、仕事頑張ったんだろうなぁ。 そのことが、とても嬉しい。 「…俺、本当に一人でも大丈夫だよ?それに全然怒ってないし」 無理をしなくても大丈夫。 一緒にいたいとは思うが、それよりも俺としては和希が元気でいてくれることのほうが大事なのだ。 仕事を無理して倒れる、なんてことは絶対に起こってほしくない。 しかし俺の言葉を聞いて和希は少し拗ねてしまったようで。 「何だよ。一緒に年越ししたいと思ってるのは俺だけか?」 「そんなことないっ!俺だってそう思ってるよ」 「ならもっと俺のこと怒ってくれていいのに」 「和希仕事なんだろ?仕方ないよ」 怒りの感情なんて、最初から感じていなかった。 だって和希は鈴菱グループにとって大事な立場にいて、大事な仕事があるんだから。 「俺としては、素直に寂しいって言ってくれた方が嬉しいんだけど」 言われた言葉に思わず息を詰まらせる。 …何だよ、気づいてたのかよ。 怒ってはしない。むしろ和希が仕事を優先するのは当然のことであって、俺が怒るところなどない。 だけど、分っているけれど、俺だって寂しいのだ。 「啓太のことだから、俺に気使ってなんともない風に振舞ってるんだろ?」 悔しい。悔しい悔しい。 まさに和希の言うとおりだから。 人が言わないようにと。そう悟られないようにと、必死に心の奥で殺していたのに。 寂しいという感情が、溢れてしまう。 「…和希は、どうなんだよ?」 「俺?」 「寂しく、ないのかよ…!」 俺ばっかり和希に言い当てられて、悔しくて。思わずそんなことを口走ってしまう。 「寂しいよ。啓太に、逢いたい」 そんなに切ない声で言われると、我慢できなくなってしまうではないか。 言わないように、必死で我慢していたのに。 「…俺も、寂しいよ。俺だって、和希に逢いたい」 「啓太…」 「けど!本当に俺のとこ来たら駄目だからな!?ちゃんと仕事しろよ!?でも無理はするなよ!?」 本当に和希が今すぐ飛び出して来そうだったから、俺は慌ててそう付け足した。 和希は少し驚いて、そしてたぶん、苦笑いを浮かべながら答えた。 「わかったよ。大丈夫だって。仕事ほっぽりだして啓太のところには行かないよ。そんなことしたら、啓太怒るだろ?」 「当たり前だろ!」 俺は和希の仕事の足を引っ張りたくないのだ。和希の仕事の邪魔になるようなことは、したくない。 「だから、仕事終わったらすぐに啓太のところに行く。覚悟しとけよ?」 最後のセリフをとても艶のある声で言われて思わず顔が赤くなる。 その声は、夜に聞く、声。 「馬鹿…!」 「はは。俺は本気だからな?あ、啓太。もうそろそろっ」 「え?」 「時計、見てみろよ」 時刻を見ると、次の日に変わる、数秒前。 だけど今日は、ただ次の日になるだけではない。次の年にもなる日。 「なぁ啓太」 「ん?」 後10秒というところで、和希が呼びかける。 後5秒。 「…愛してるよ」 「な…!」 それはそれはとろけそうなくらい優しい声で。 言われた俺はいきなりの告白に驚きと恥ずかしさとで軽いパニック状態になる。 「何言って…っ」 「啓太は?」 楽しそうな声が俺に問いかける。 後、1秒。 「…明けましておめでとう和希。今年もよろしく、あ、愛してるよっ」 恥ずかしさのために少しやけくそになりながらそう叫びながら言ったら、和希嬉しそうに笑って。 「有難う啓太。明けましておめでとう、こちらこそよろしくな」 ああもう。悔しいよ。俺が必死で我慢してるのに。和希の声を聞いていると、実際に逢いたくなる。 「仕事、頑張れよ」 「…ああ」 「だけど、無理はするなよ?」 「わかってるよ」 なぁ和希。今は我慢するからさ。 無理しない程度に頑張って、早く俺のところに来てくれよ? 『明けましておめでとう☆』 ――――――― もうなんかよくわからないから終わらせてみました。 正月ネタでまだまだ突き進みます。(笑) タイトルですべてをぶち壊してみました。(笑/ぇ |