真っ白な空間を、ただただ歩いた。
どこに行けばいいかは、わからない。けれども、ひたすら歩いた。

先ほどまで見ていた光景を思い出して、胸が痛くなる。
昔の仲間たちと、彼の子どもの様子を、遠くから見ていた。そこで知った、事実。

それからというもの、俺はひたすら歩いた。とにかく、歩いた。
疲れを知らない身体。時を感じない、空間。
どれくらい歩いたのかは分からない。
早く彼に逢いたいという思いと、逢って何を言えばいいのか分からない思いとが混ざり合って、俺の思考は落ち着かない。
それでも、歩いた。

いるはずなんだ。彼も、ここにいるはずなんだ。いるに決まっている。
何を言えばいいか、分からない。
でも、それでも。
逢いたい、逢いたい。
……レギュラス。


「……何を、しているんですか。貴方は」
後ろから声をかけられて、その場に固まるように立ち止まる。
自分の記憶よりも若干低く、自分が知っているよりも落ち着いた声が、俺に届く。
ああ、この声を聞くのは、何年ぶりだろう。
最後に聞いたのは、俺がホグワーツを卒業するときに永遠の別れをした。その時以来。

ゆっくりと振り向く。
そこには、俺が覚えているよりも少し大人びたレギュラスが、呆れたように立っていた。
「本当に貴方は、いつまで経っても落ち着きがないんですね」
「……レギュ、ラス」
色んな感情が混ざり合って、心が悲鳴を上げて、涙が零れそうになる。
知っていた。
ブラック家を嫌っていた俺のために、俺の替わりになろうとしていてくれたこと。
飛び出した俺の変わりに、両親の期待に答えるように、ひとり頑張っていたレギュラス。
ごめんな。俺がグリフィンドールに入ったから、お前に期待と負担が全ていったよな。
家を出ると告げた時に、一瞬見せた寂しそうな顔にだって気づいたよ。
それでも、すぐに冷たい表情をして、貴方はもう僕の兄ではない、と言ったよな。
有難う。俺の行動を、お前なりに応援してくれて。
お前が死んだと聞いたとき、俺、泣けなかった。
死喰い人になったのは知っていたが、どこかで、お前は死ぬはずがないと思っていたのだ。
信じられなかった。ただ、信じられなかった。
遺体はない。葬式もない。墓もない。
お前の死が受け入れられなくて、泣けなかった。
先ほど知った、事実。
彼が命がけで、屋敷しもべを守ったこと。命がけで、ヴォルデモートに対抗したこと。
それを知って、とにかく逢いたいと思った。
言いたい、ことがあるんだ。


「…レギュラス」
「…なんて顔してるんですか」
「レギュラス」
「……全く。泣きたいのはこっちの方ですよ」

レギュラスが一歩俺に近づいた。
昔あった身長の差は、今ではほとんどなくなっている。

「…なんで、こんなに早くこっちに来てしまったんですか」
「レギュラス」
「貴方にはやらなければならないこともやりたいことも、たくさんあるでしょう」
「……っ」

耐え切れず、俺はレギュラスに近づいた。
今でも、今でもお前は俺のことを思っていてくれているのか。
お前だって、やりたいことたくさんあっただろ。
小さい頃は甘いものを食べると無邪気に笑っていたのに、お前はいつから笑わなくなった?
両親を、母親を裏切ることが出来ず、自分を押し殺していたお前。
なぁ、お前の、夢って何だったんだ?
俺よりも、ずっとずっと若い時に人生を終わらせてしまって、楽しい人生はおくれたのか?
自分のことよりも、周りに気を使える、優しい子だった。

大きくなった身体を、抱きしめる。

「…何ですか」
身体を硬くさせて、冷たい声で言う。
彼の心の氷が、少しでも解ければいいと思って、もっともっと強く抱きしめる。
死んだ後くらい、自分の好きなように、いて欲しい。

「レギュラス、」
自分のいたい姿で、いて欲しい。

「ごめんな。本当にごめん。それと有難う。よく、一人で頑張ったな」
傍にいれなくてごめん。お前を守れなくてごめん。
俺を守ってくれて有難う。俺を想ってくれて有難う。
一人で立ち向かったお前を、俺は心から誇りに想う。

感情が溢れ出して、自分でも止めることが出来ない。ひたすらレギュラスを抱きしめて、ごめんと有難うを繰り返した。
いくら言ったところで、もう、遅いのだけど。
それでも、

「好きだ。俺はお前が弟で、本当に嬉しく思う」
大好きだよ。ずっとずっと、小さい頃から、今でも、これからも、愛してる。

少しずつ、レギュラスの身体から力が抜けるのが分かった。
それと同時に、肩に暖かいぬくもりがする。
「……っ」
「レギュラス…」
「……にい、さま」
押し殺した嗚咽の中、震えた声を搾り出した。
添えるように俺の背中にレギュラスの腕が回って、俺はより強くレギュラスを抱きしめた。

「ごめんな。ごめん」
「兄様、」
「うん。有難う」
「兄様、兄様、」
「愛してる」
「……っ」
俺に縋るように、レギュラスが抱きついてきた。

「…さみし、かった…っ」
「うん、ごめん」
「あいたかった…っ」
「うん。俺も逢いたかった」
「でも、兄様が笑っててくれるなら、それだけでいいと、そう思ったんです…っ」
「うん。本当に有難う」
「兄様が幸せだったなら、少しでも兄様の力になれたのなら、これ以上の幸福はないです」
「…レギュラス」
「僕は、幸せでしたよ。だから、泣かないで」

どうやら俺もいつの間にか涙を流してしまっていたらしい。
レギュラスの肩を濡らしてしまっていることに、今気づいた。

レギュラスが額を俺の額に合わせた。
至近距離で、彼の瞳を見つめる。
「…レギュ、」
「謝らないでください。兄様には、いつでも笑ってて欲しいんです」
「…俺も、お前は笑顔でいて欲しいよ」
言って、見詰め合って、そして、2人で小さく笑った。

「お前、大きくなったな」
「兄様も、かっこよくなった」
「なぁ、あっちに俺の親友がいるんだけど、一緒に来ないか?」
「…ポッターですか?貴方たち2人が揃うと騒がしくて仕方がない」
「賑やかでいいだろ?お前のこと、ちゃんと紹介したいんだ」
「…仕方ないですね」

真っ白な空間。2人で手を繋いで歩いた。
ジェームズとリリーが待ってる、場所へ。2人で、笑い合いながらゆっくり歩いた。


行こう。一緒に、行こう。
これからはずっと一緒にいよう。

「好きだよ、レギュラス」
「僕も大好きです、兄様」





『ごめんと有難うと、大好き』


























見た目的には、シリウス→19歳、レギュ→17歳くらいで。