『触れたい、と願うのは、僕の我が侭?』




永遠の愛なんて、あるわけないんだよ。


彼の言葉に、泣きそうになった。
触れたくて思わず手を伸ばしたけれど、触れちゃいけない気がして、掌を握り締めて胸まで戻す。
「好きなんて言葉、オレは信じない。どうせいつかはそんな感情無くなるんだよ」
そう言いながら、全てを拒絶している瞳で、僕を見上げる。
座り込んでいるシリウスの、隣に座ることも許されない僕。

「それなら最初からそんな感情抱かないほうがいい。そのほうが楽に決まってる」

「だけど、人間誰しも抱く感情だ。…抱かないなんて、無理だよ」
答える声が、少し掠れてしまう。
シリウスの瞳を見つめるのが、怖い。

「抱いたって、一時だ。すぐに無くなる」

「……すぐに、なんて、無くならないよ。無くなるはずない」
悔しくて、右手を握り締める。力が入りすぎて、爪が食い込むけれど、止められない。

誰が君を、こんな風にしてしまったんだろうね?
愛なんて知らずに、育った君。
全てを拒絶する、君。

「…好きなんて、信じない。永遠の愛なんて、あるわけない」
先ほどの言葉を繰り返されて、思わず言葉が詰まる。


そんな冷たい目をしないで。
そんな悲しいこと言わないで。


「だから、オレに何言ったって無駄なんだよ」

君はそう言うけれど。
だけど。

「それでも僕は好きだよ。君が、シリウスが好きだ」

「どうせなくなる感情だろ」

「永遠、なんてそんなこと言えない。未来は、僕にだってわからない」

そんなもの、誰にだってわからない。
だけど、未来なんていう不確かなものに怯えるよりも。

「好きなんだ。今僕は、君が好きなんだ。今このときを、君と一緒に過ごしたいんだ」

ずっと一緒にいようなんて、そんなこと言えない。
死ぬまで君が好きなんて、不確かなことは言えない。

「今、僕はシリウスが好きなんだ。いつまでかなんてわからないけど、今、僕はシリウスと一緒にいたい」

お願いだから、全てを拒絶しないで。
泣きそうな顔をしないで。

手を伸ばした。今度は、引っ込めたりしない。
彼の頭に回して、抱き寄せる。


「シリウスが好きなことは、嘘なんかじゃないよ」






――――――――
ブラックさん家の事情は複雑ですから。