3人分の足音が、廊下に響き渡る。
人気の無いこの廊下を、オレたちはただ走った。

「待たんかー!!」
「待てと言われて待つバカがどこにいるんだよ!」
「ましてや追われてる身としては、待つわけが無いよね!」
叫んで、そして2人で顔を見合わせて、笑った。

人気の無い廊下には、フィルチの怒鳴り声と、オレたちの笑い声だけが聞こえる。
今は夕食時だから、普通の生徒は大広間だ。

そんな時間に夕食も食べずに走り回ってるのは、この時間を狙って悪戯計画を実行したから。
その計画は見事成功し、だけど、それを受けたフィルチはかんかん、というわけ。

ここは学校のどの辺りなのか、と考えを巡らす。
「シリウス!」
呼ばれて、驚いて声の方を見た。
そこでは、ジェームズがドアに片手を掛け、そしてもう片方の手をオレに向けて伸ばしていた。
咄嗟に手を取る。すると反動でそのままドアの内側に引っ張られた。
走っていた所為で、勢いが大きくて、身体を止められない。
パタン、とドアを閉める音が聞こえるときには、オレは思いっきりジェームズに突っ込んでいた。
抱きとめられる。
すぐに離れようとしたけれど、後ろに手を回されて、身動きが出来ない。

「ちょ、ジェームズ!」
「しっ!静かに!」
言われてはっとした。そういえば、今はフィルチに追われている最中だった。
思わず身体を強張らせて、固まる。息を潜めて、その場をやり過ごす。

「ポッター!ブラック!!」
叫び声と足音が段々遠くなる。

きっと今頃、フィルチの前には偽者のオレたちが走っているのだろう。
これもまた、悪戯のうち。

フィルチの声が完全に聞こえなくなったところで、オレたちは耐え切れずに吹き出した。
そして2人で笑う。
その場に座り込んで、足を投げ出して、手を後ろにつけてからだを支える。
隣でジェームズも同じ格好で笑っていた。それもまた面白くて、思わず笑ってしまう。

「成功だね、パッドフッド」
「やったな、プロングス」

計画は全て成功。嬉しくて面白くて、笑いが止まらない。

「さっきのフィルチの顔見たか?凄い顔してたな」
「あれは本当に傑作だったね」

思い出して、また笑う。
これだから悪戯はやめられない。

真っ暗な部屋に、2人分の笑い声が響く。
下手に見つかってはいけないので、少し声を落として話していた。

「これからどうする?」
ふと今の状況を思って、尋ねた。
「とりあえず夕食はあとで屋敷しもべ妖精に貰うとして。とりあえず今はもう少しここで待機かな。フィルチが完全に何所かにいくまで待たないと」
「そっか」
ふーっと息を吐いて、自分を落ち着かせた。
とりあえず、笑ってばかりではいられない。
本当に喜ぶのは、寮の自分の部屋に戻ってからにしないと。

「まぁそんなわけで、パッドフット」
「なんだよ、プロングス?」
「この部屋には僕たち2人なわけだ」
「そうだけど……。なんだよ」

ゆっくりとジェームズが近づいてきて、驚く。と同時に、心臓の鼓動が、早くなる。
鼻と鼻が触れ合うところまで近づかれて、焦った。
「ちょっ……っ!ジェームズ!」
オレの顔は紅いだろう。そもそも、家庭の事情で人の体温というものに慣れていないのだ。ジェームズとこんな関係になった今でも、まだ慣れない。

ジェームズの肩に手をあてて押し返そうとしたけれど、手を上げた時点でジェームズに取られてしまう。
手首を握られ、身動きが取れない。
「ジェームズ……っ!」
「しっ。シリウス、見つかるよ?」
悪戯っぽくそう笑うのは。
「反則だ……っ!」
そう言われては抵抗が出来ないではないか。

「これも作戦のうちです」
言いながらオレの額に口付けた。

「おま……っ!このことまで考えてたのかよ……っ!」
オレは、隠れるためにこの部屋に入る。としか聞いていなかったのだが。

「だってシリウスってば、人が居るところでこういうことしたら怒るでしょ?」
「当たり前だ!!」

そう叫んだら、ジェームズがオレの瞳を見ながら真剣な顔をした。
その瞳に吸い込まれて、眼が逸らせない。
「僕だってね、シリウス」

ビクっと、肩が震えた。
いつより少し低めの、少し掠れた声に、驚いてしまう。

「君に、触れたいんだよ」

そう言って、ジェームズが掴んでいるオレの右手首に口付けた。

「君は、そうじゃないかもしれないけど」
「な……っ!」
最後に一言、苦笑されて、思わず絶句する。

「やっぱり人に触れられるの嫌だ?怖い?」
心配されているのだと気づいて、少し安心する。

良かった。愛想を尽かされたわけじゃなくて。

「怖い、わけじゃない。ただ慣れないだけ。……他人に触れられるのは嫌だけど。…ジェームズは、嫌じゃない…っ」
ただ、君に触れられると自分でも信じられないくらい動揺してしまうんだ。
驚いて、紅くなって、緊張して。

君に触れられることに、慣れる日は来るのだろうか。
いや、きっと。いつまでも君にドキドキさせられると思う。

オレがジェームズを好きな限り、ずっと。


オレの言葉を聞いて、ジェームズは嬉しそうに微笑んだ。
ほら、そんな顔にまたドキっと反応してしまう。
悔しいけど、かっこいい。


「じゃあ、これから頑張って慣れていこうか」
「…まぁ、努力はしていくよ」
こんなことがあるたびに、こんなに振り回されては、大変だもんな。

ジェームズは、嬉しそうに笑って。
「頑張って」
そしてそのまま近づいてくる。

身体が強張るけれど、それを感じたジェームズが、大丈夫だよ、と囁く。

ジェームズの言葉は不思議だ。流石魔法使い。
何故かジェームズの言葉に本当に大丈夫な気がして、身体の力は少し緩まる。

そしてそのまま、ジェームズを受け止めた。


触れるだけなのに、照れくさい。

顔は真っ赤で、鼓動は早くて、恥ずかしくて眼があわせられない。



ねぇ、知ってる?僕が君をこんなにも好きなこと。









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このタイトルで最初ジェームズ視点で書こうと思ったんですけど、なんとなくシリウス視点にチェンジ。

ハリポタ炎のゴブレット公開まであと4日!