『空への憧れ』






「空が好きなの?」
人影が全く無いところに座り込んで、空を見上げているシリウスの横顔に声をかけた。
僕が近づいた気配には気づかなかったらしく、まぁ気づかれないような近づいたんだけど、面倒くさそうに視線を僕の方に向けて、苦い顔をした。
「…何の用だよ」
「空が好きなの?」
特に無い。ただシリウスと話がしたかっただけさ、なんて言ったら、絶対にシリウスは近づくことを許してくれないだろうから、僕はただ最初の質問を繰り返す。
するとシリウスは自分の質問に答えが返ってこなかったことが不服なのか、少し眉間に皺を寄せて、また空を見上げた。
へぇ。僕を無視しようっての?

「空が好きなの?雲が好きなの?それともただ上を見ていただけ?」
勢いに任せて彼に詰め寄るようにそう尋ねた。ついでにシリウスの隣りに腰を下ろして、僕もちらっと空を見る。だけどすぐに視線はシリウスの、僕に向けられることは無い瞳に向けて。

「……おまえには関係ないだろ」
「僕は気になるんだよ」
睨みつけてくる彼に微笑み返す。
シリウスはしばらく睨んだ後に、溜息をついてまた視線を空に向けた。もうこうなったら返事なんて期待できないだろう。
少し苦笑しながら僕も視線を空に向ける。

「……空ってさ。いいよね。」
ポツリと呟くように声を出しながら右手を空に伸ばした。
「大きくて、広くてさ。……あそこに行きたいな」
指の間から溢れてくる太陽の光が、少し眩しい。
青い空を、鳥が一羽、通り過ぎていった。

「鳥になって…飛び回りたいな。あの広い空を」
自由という鳥になってどこまでも。縛られることなく、飛んでいきたい。

「……ポッター家のご子息でもそんなことを思われるんですね」
「何。ポッター家は関係ないだろ?」
バカにされたのかと思って、少し怒りながら彼を見た。
僕は、僕自身が空に憧れを抱いているのであって、ポッター家なんか全然関係ない。
それとも何。ポッター家は優秀家庭でそんなバカげたこと考え可笑しいとでもいうの?

「いや、ごめん。バカにしたわけじゃないんだ。……ただ、オレも同じことを思ってたから」
空から視線を僕に向けた彼が、はにかむように笑った。
彼に初めて、笑顔を向けられたかもしれない。いや、かもしれないじゃない。初めてだ。
突然のことに驚いて身動きがとれなくなってしまう。

「空を飛びたいんだよ。オレも。何も縛られることなく…自由気ままに飛び回りたい」
そう語る彼の表情はいつもの冷たいものではなくて。憧れと希望とが入り混じった、穏やかな表情。

「飛ぼうよ!」
「は?」
思わず立ち上がって叫んでしまった。彼が話してくれたことが嬉しくって、彼がこんな表情を見せてくれたことが嬉しくって。少し僕も興奮していた。

「飛べるよ!だって僕たち魔法使いじゃないか!一緒に飛び回ろうよ!僕自慢じゃないけど箒乗るのなかなか上手いよ!」
2人で箒に跨って。
広い空を思いっきり泳ごうよ。
何にも囚われないで、自由に飛びまわろうよ。

「楽しいと思うよ。シリウスと僕とで目的も無く飛び回るの」
笑顔を向ければ、何を言ってるんだかわからないというような表情をしていたシリウスと目が合ったけど。
すぐに彼も嬉しそうに笑って、その笑顔を僕に向けて言った。

「楽しそうだな」
「でしょ?早速飛ぶ?一年生は箒持ってくるの駄目らしいけど僕持ってきたんだよね。」
「うわ。ポッター家のご子息はやるときゃやるねぇ」
「ブラック家のご子息こそ考えることが壮大で素晴らしいですよ」

何が楽しいのか僕たちはそう言いあって思いっきり笑いあって。


「行こうよ、シリウス」
「……おう」
手を伸ばせばその手を掴んでくれる君。




いつまでも彼と、自由に飛び回りたいな。





――――――――
まだ親しくない関係で。