寮の自室に帰ろうと階段をのぼっていたら、ジェームズの情けない声が聞こえた。 階段をのぼりきって、ドアの前につけば、困った顔をしてドアに寄りかかる彼。 邪魔なんだけど。 『ただいつまでも一緒にいてと願うだけ』 「……何してるの?」 僕は呆れた顔して、腕を組んで目を閉じて頭を捻っているジェームズに聞いてみる。 そんな風にドアの前に立たれたら、僕が部屋に入れないじゃない。 「シリウスが入れてくれないんだ」 目を閉じて頭を捻りながらジェームズは答える。僕が階段をのぼっていることに気づいていたのだろう。 だからそんなポーズで僕を待っていたってわけだ。 「それはそれは、大変だね。そこよけてくれる?僕入りたいから」 心底興味なさそうにそう告げた。本当に、心底興味なんてないんだけど。 巻き込まれるのはごめんだ。僕はとりあえず取りにきた本だけ取って、とっととこの場を去りたいのだ。 「だから、入れないんだよ!」 「それはジェームズだけでしょ?僕は関係ないもの」 ポーズを崩して、僕にすがり付いてきながらジェームズは告げる。 助けて欲しいらしいけれど、冗談じゃない。いい加減君たちの痴話喧嘩に巻き込まれるのはうんざりだ。 「そんな!僕が入れないのに、リーマスが入れるはずがないじゃないか!」 「何で?ここ僕の部屋でもあるんだけど」 「そりゃあ…、僕の部屋でもあるのに、僕が入れないからさ!」 「ああそう。とりあえず避けてくれる?」 僕としては、早く談話室に戻りたいのだ。 本当に、こんなところで痴話喧嘩なんて、迷惑極まりない。 「避けるけど……。きっと入れないよ?」 「……何で」 そう言いながらドアノブに手をかけ、開こうとしたんだけど。 ……びくともしない。 「ね、入れないでしょ?」 「…………」 ドアにはシリウスが魔法をかけたんだろう。 そしてそれがとけないからジェームズはここでシリウスを説得してるんだけど、上手くいかず開けてもらえなくて。 ……ジェームズがとけない魔法を、僕がそう簡単にとけるとは思えない。 「…何があったのさ」 溜息をつきながらジェームズに問いかける。とりあえずこれは、原因を追究して解決しなければ、シリウスは魔法をといてはくれないだろう。 ならとっとと解決させるべきだ。 「……大したことはしてないんだけどね」 「ジェームズにとっては大したことじゃなくても、シリウスにとっては大したことだったんでしょ。で、何があったのさ」 何でもいいから早くはけ、と視線で訴えれば、ジェームズは苦笑しながら答えた。 何?僕らしいとでも思ってるの? こっちとしては、巻き込まれたことが不愉快でしょうがないのに。 「別に、ただちょっと図書館でキスしただけだよ」 「間違いなくジェームズが悪い。早く謝りなよ」 「そんな即答しなくても!だって、シリウスがあまりにも可愛いから!それに僕だってちゃんとシリウスに気を使って、誰にも見えないようにしたんだよ?」 「言い訳は聞きたくない。早く謝って」 そして早くドアを開けて。本を取らせて。この場から去らせて。 睨みつけながらそう言えば、ジェームズは心底困った顔をした。 「さっきから謝ってるんだけどね」 「誠意が足りないんじゃないの?」 「…何を言ってもシリウスってば、『ジェームズのバカ!近寄ってくんな!』しか言ってくれないんだもん。全く相手にされないんだ」 「……シリウスー。僕だけど」 仕方が無いので、ドアの向こうに呼びかける。ああ、ジェームズめ。これが目当てだったんだろう。今度ホグズミートに行ったらお菓子を山ほど買わせてやる。 「…リーマス?」 ドアの向こうからくぐもった声が聞こえる。布団に丸まっているのか。その姿が想像できて可愛らしい気もするが、そこで和んでなどいられない。 「そう。君と同室のリーマス・ルーピン。ジェームズが土下座して謝りたいんだって」 「…ジェームズなんて知らないっ!」 「そんなこと言わないで。ジェームズだって本当に申し訳なく思ってるみたいで、今後一切あんなことしないって言ってるよ」 「え!僕そんなこと言ってな…っ!」 抗議の声をあげるジェームズの足を思いっきり踏みつける。こんなことがあったのに、まだしようというのか、この男は。 呆れて物も言えないとはこういうことだ。 「……しないよね?」 「…しません」 睨みつければ、文句有りげながらもジェームズから返事が返ってくる。 「というわけだし、ここ開けてもらえないかな?」 「でも…」 「ジェームズ反省してるよ。隣で見てる僕が言うんだから、間違いないよ。それとも、僕のこと信じられない?」 少し寂しそうな声で言う。そうすればシリウスのことだ。絶対に心が揺れるはず。 「そんなこと…っ!」 ほらね、と心の中で微笑む。ジェームズにも、これくらい素直に接すればいいのに。 照れくさくて出来ないのか。ジェームズだから出来ないのか。 どちらにしても、ジェームズは特別ってことなんでしょ? 「それなら、ジェームズのことも信じてあげてよ。本当に反省してるから」 「…………」 「シリウス…ゴメン。シリウスが嫌がることは、もうしないから…」 ジェームズの本気にシリウスも心が動かされたみたいで、ドアからパァン、と小さい音がした。 それは、魔法がとかけた音。 「シリウスっ!」 すぐさまジェームズがドアを開けて、部屋の中に飛び込む。 シリウスは想像したとおり布団を身体に巻きつけていて、顔はよく見えないけれど。雰囲気からして、もう怒っていないだろう。 「シリウスー!」 「あーもう!抱きつくなっ!」 そんなことを言いながらじゃれている2人を横目に見ながら、僕は求めていた本を取って、すぐさま立ち去る。 静かにドアを閉めて、小さく溜息。 本当にもう。いい加減にしてよね。 こんなことに巻き込まれるのはもうゴメンだ。 仲がいいことは、とても微笑ましいことだけど、僕を巻き込むのだけは勘弁してくれないかな。 そう思いながらも、2人を本気で見捨てられない僕にも巻き込まれる原因があるのだろうか。 本当に、やってられないよ。 もう一つ溜息を零して、長いこと待たせてしまった談話室で待っているピーターのもとに向かった。 「いい加減にして欲しいよね」 呟きながらも、あの2人の光景を思い出して、思わず顔が緩んでしまうのは、止められない。 どうせ仲直りするんだから周りに迷惑かけないで、喧嘩なんかしないで、仲良くやってよね。 ―――――――― リーマスは2人が仲良いのは微笑ましいなぁと思いつつも、だけどその2人のことに巻き込まれるのが嫌なんだっていう話。(説明がないとよくわからない可能性大) |