額から流れる汗を、手の甲で拭う。
服が身体に張り付いて気持ちが悪い。今すぐお風呂に入って、さっぱりしたいものだ。

「そんな中、頑張るよねぇ」
苦笑しながらグラウンドに立っている彼を見た。
何か指示を出しているのか、声を張り上げて叫んでいる。

日曜日。せっかくの日曜日。しかも夏。クーラーの無いところにいるなど、僕には耐え難いことなのに。
そんな中でも渋谷はいつも通り草野球。そして僕はマネージャーのお仕事。
マネージャーと言っても、ベンチに座って、太陽と戦っているだけなのだけど。

本当、よくこんな中走り回れるよ。

少しばかり、尊敬してしまう。
だけどね、渋谷。君さっきから休憩無しで練習してるだろ?

僕はベンチから立ち上がって、両手を口に添えて叫んだ。
「休憩休憩ー!いい加減水分補給しないと倒れるよー!!」
僕のその言葉で、周りの皆がどんな調子なのか気づいたらしく、渋谷はすぐさま叫んだ。

「それじゃ、休憩!村田んとこに飲み物あるから皆貰ってこい!」
言うと皆、緊張の糸が切れたようで、力が抜けた身体を引きずるように僕のもとにやってくる。

皆にドリンクを渡しながら、チラっと渋谷を見た。
渋谷はホームベースから動かない。その場に立って、野球グラウンド全体を見渡していた。
それを見る目はとても真剣そのもの。
考えているのは、多分、試合のことなんだろう。その場について指示を出す彼の眼と、同じ眼をしているから。

大体皆に配り終えたところで、僕は渋谷に向かって叫ぶ。
「渋谷ー!早く飲みなよ!君が脱水症状で倒れたら意味が無いだろー!?」
「ん、ああ」
顔を上げて、僕に向かってくる。その顔は、いつも僕に向けてくれる、顔。


「今日は暑ぃなぁ…」
言いながら帽子を脱いで、額の汗を先ほどの僕と同じように、手の甲で拭った。
そんな渋谷に、僕はタオルを渡す。
「ここ一番の暑さだよね。ほら、タオルあるんだから、これで拭きなよ」
「ああ。さんきゅ」
「あと、はい、ドリンク。冷えてるよ」
「うおっ!すげぇ冷たいじゃん!んー。生き返りますねー」
渋谷はゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んだ。
そして僕を見る。

「あれ?村田は飲まねぇの?」
言われて、苦笑する。
「僕は選手じゃないし、いいよ。座ってるだけだしね。動いてる君らの方が飲み物必要だろ?」
だけど、渋谷は渋い顔をして。
「何言ってるんだよ!こんなに暑いんだからお前だって喉渇くだろ?何、もう無いの?」
「まだ有るけど。だけど少しでも残しておいたほうがいいだろ?まだ練習するんだし」
「それじゃ、村田が辛いだろ!」
そうやって、他人を気遣う渋谷は、とても良いと思うけど。

「僕なら大丈夫だよ。ほら、渋谷、そろそろ行った方がいいんじゃない?」
もう十分休憩は取ったはずだ。そろそろ始めないと、休憩時間を取りすぎて、皆がだらけてしまうだろう。

「じゃ、おれの分やるから、飲めよ」
そう言って、渋谷は僕の胸に今まで飲んでいたドリンクを押し付けた。
「ちゃんと飲まないと駄目だからな!こんなに暑いんだから。お前に倒れられると困るんだよ」

そう言って、僕に反論する暇も与えず彼はグラウンドに駆け出して行ってしまった。
練習開始するぞー!という彼の叫び声が響く。


僕は、渡されたドリンクに視線を落とす。
それは、先ほどまで彼が飲んでいたもの。


これって。


「……間接キス?」


思わず口に出してしまい、恥ずかしくて苦笑した。
高校生にもなって、こんなことで照れるなんて。



口にしたスポーツ飲料は、とても冷たくて、生き返るようだった。








『間接キス』