「コン、ラッド……」
切れ切れの声で名前を呼ばれて顔をあげた。

「ユーリ……?」
目の前のユーリの状況がいまいちわからなくて、ただ名前を呼びかける。
手につくのは紅いモノ。
ユーリの息は辛そうで、眉を顰めていた。

「どう…しました……?」
どうしてユーリが目の前で倒れているのかがわからない。
手につく紅いモノが、次から次へと溢れてくる。
…見たことがある、けれど。…わからない。頭が痛くて、考えられない。

「だい…じょうぶ……?」
問い掛けられるけど、その意味もわからない。
「大丈夫ですよ?俺は何も変わりません。ユーリこそ、どうしました?」
笑顔で答えれば、ユーリは安心したのか微笑んだ。
「そう…か……。よかった……」
「えぇ。大丈夫ですよ」
彼の頬を撫でる。
白い肌に、紅いモノがつく。

「コンラッド…」
消え入りそうな声で、ユーリが呼ぶ。
「なんですか……?」
彼の口元に耳を寄せて、彼の声が聴きやすいようにした。彼の声がこんなに小さくなってしまっているのは、どうしてだろう。
城に帰ったら一度医者に見せなければ。ギーゼラに頼んだら、きっと元通りのきれいな声が出せるようになるだろう。

「あり…が、とう……」
「え?」
なぜ今そんなことを言われなければならないのかわからなくて、思わず顔をあげる。
ユーリは瞼を閉じていて、眠ってしまったようだ。

「ユーリ…、こんなところで寝たら風邪ひきますよ。城に帰ってから寝てください」
ユーリの身体を揺さぶるけれど、ぴくりとも反応はない。
「熟睡しちゃったんですか…?ユーリ?ユーリ…?」
名前を呼んでも彼は答えてくれない。
ねぇ起きてください。城に帰ればふかふかのベッドが待ってますから。

「ユーリ、ユーリ。仕方ないなぁ。それでは俺が抱えて帰りましょうか」
身体を抱き起こして、持ち上げた。
身体の冷たさに、思わず小さく笑う。

「ほらユーリ。こんなに冷たくなってるじゃないですか。風邪ひきますよ」
仕方がないので、身体を抱き寄せながら歩き出した。


遠い城に向かって、俺は歩き出した。


動かないユーリを、ただ抱きしめる。



『名前を呼ぶけれど、答えてくれない』



―――――――
泣かなかったばーじょん。
ゆーちゃんの死を受け入れなかったばーじょんです。
もっと狂気な感じを出したかったんですけど…。うーん…。微妙だなぁ…。(苦笑
泣かないってことは受け入れられないからだと思うんですよ。受け入れちゃったら泣けちゃうと思うのですよ。
私的にシリウスの5巻のアレは、最初泣けませんでしたから。(笑)
シリウスのおじいさんの発言で泣きましたよ…。