いきなりの雨にあわてて木の下に潜りこむ。
どうしようかなぁ、なんて呟くけれどそんなに慌てても困ってもいない。

雨はどちらかと言うと好きだ。
濡れると冷たいなとは思うけれど、嫌悪感は感じない。
暗くなってしまった空を見上げる。顔に雨が降りかかるけれど、不快ではない。
水平線まで視線を移す。そこもまだ雲は暗い。この様子だと当分止みそうにないだろう。
僕も当分はこのままかな。雨が止むまでここで雨宿りをしていようか。
それとももうすでに濡れてしまっているし、これ以上濡れたって変わらないだろうと自分の家まで帰ろうか。
でもここからだとちょっと遠いんだよね、僕の家。

僕の家から少し遠いここまで来たらシンとばったり逢えるかな、なんて思って出かけたのだけど。
実のところ彼の家はここからだと近い。…だけど僕が彼の家に行くのは何だか悔しい。

だからシンの家の近くなら彼に逢えないかと思って出かけたのだ。その結果がこの有様。
まぁ別にいいけどね、だって雨は嫌いじゃない。

この雨を見ていると全てが洗い流される気がするのだ。
僕の中のモヤモヤも、全て。
それに雨の日の風景は、いつもと違ってとても綺麗だと思う。
木の葉がキラキラしていて、綺麗だ。

目の前にあった葉っぱを軽く弾いて水が散るのを見て楽しんでいたら、走りよってくる音が聞こえた。
顔をあげて音の方を見れば、慌てている様子のシンがいた。
「シヴァ!何してるんですか、こんな雨の中!」
ああシンだ。一応彼に逢いたいと思って出かけた僕としては、彼と逢えたことが嬉しくて。

小さく笑っていたら、シンに怒られた。
「風邪ひきますよ!?」
そう言いながら自身が使っていた傘を僕に渡す。その行動に僕は眉を顰めた。

「そんなことしたらシンが濡れるじゃないか」
「私はいいんです。それよりもどれくらいここにいたんですか?冷え切っているじゃないですか!」
僕の手を触りながらシンが言う。シンの手の温かさが気持ちいい。そこで初めて自分が冷えていることに気づいた。
だけど。
「僕だっていいよ。別に、寒くないし」
なんて答えるけれど、シンに触れてから寒さを自覚してしまい、今は少し肌寒い。
とりあえずシンに逢えて目的も果たせたし、帰ろうかな。これだけ濡れてしまっては再び雨の中に入っていっても変わらないだろう。

「僕帰るから、シン傘さしなよ」
僕の方に傾けられている傘を返そうとするけれど、シンはそれを拒む。
「帰るならこの傘を使ってください」
「これ以上濡れたって変わらないよ」
僕は傘を返そうとするけれど、びくともしない。シンの腕は僕に傘を差し伸べたままだ。
それがとても、悔しい。
僕の心配はするくせに、自分の心配はしないわけ?
僕のことを気にしてくれるのは嬉しいけれど、自分のことを蔑ろにしては欲しくない。
シンの身体だって、大事なのに。

「風邪をひきます」
「僕が風邪ひいたってシンには関係ないだろ!?」
僕の言い分を全く聞いてくれないシンに少し腹がたって、僕がそう叫べばシンは掴んでいた僕の手を思いっきり引いた。
僕は体勢を崩して引っ張られるままにシンに倒れこむ。僕の手を握っている反対側の手で、抱きしめられた。

温かい、とつい思ってしまう。


「関係ないわけ、ないじゃないですか。シヴァが風邪をひいたら私はとても困ります」
「…どれくらい?」
なんとなく照れくさくて、そんなことを聞いてしまう。
「泣いちゃいますよ」
あまりに真剣な声で言うので面白くて、笑ってしまった。
「それは大変だね」
「えぇ。ですから風邪はひかないでください。そして帰るなんて言わないでください」
シンの体温が心地よくて、離れたくないと思ってしまう。
いまさら、この心地よさから抜け出して、帰るなんて言えないとシンだってわかっているだろうに。
悔しくて、返事は言わないで。代わりに彼の首に僕も腕を回して抱きつく。

シンの肩に顔を埋めたら、シンが僕の頭に手を回して撫でてくれる。
撫でながら、シンが言った。

「私に逢いにここまで来てくれたんでしょう?」
「な…!」
シンに逢いにきたのは事実だが、それを知られるのはものすごく恥ずかしい。
「違…!た、たまたま近くを通っただけで…!」
「こんな遠くまで散歩していたんですか?」
意地悪くクスリとシンが笑う。悔しい。恥ずかしくて、顔を上げられない。

「シンは、意地悪だ…!」
「シヴァが可愛いからいけないんです」
なんだよそれ。シンがそういう態度なのは僕の所為ってわけ?
答えられずにシンの肩に顔を埋めていたら、シンがクスクスと笑った。

本当に、シンには敵わない。

「せっかくここまで来たんですから、私の家によってくれませんか?」
笑いながらそう言われる。笑いながらっていうのが少し気に食わないけれど、だけどやっぱり嬉しい。
自分から行く勇気がなくて、シンに誘われないと行けないシンの家。

「バカ」
そう呟きながら彼により一層力を込めて抱きついた。

先ほどまでの肌寒さなんて感じないくらい、今はとても温かい。




多分、シンがいるから僕は雨が嫌いじゃないんだろうなぁと思った。
この温もりがあるから、雨が降っても寒くない。








『雨の中でも』






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傘はどこいったー。シヴァを抱きしめるとき、シンは落としました。
シンが雨に濡れる(ようなメインはそのことじゃなかったけどとりあえずは濡れてた)な話を書いていたのですが。
パソコンが壊れてしまいデータが消えてしまったので。リベンジでシヴァが濡れる話です。(笑)