いきなり僕の部屋にやってきたかと思ったら、第一声がこれ。

「シヴァー!腹減ったー!」



『ご飯作って?』



「だからなんで僕が!」
「だって腹減ったんだもん。なーなー、まだー?」
包丁を握りながら思わず口に出したら、テービルの前に座って準備万端のガイが言った。

「その理由がよくわからないんだけど…っ」
腹減ったイコール何故僕にご飯を請求してくるのか。
そして何故僕は本当にご飯を作っているのか。


「せめてノックくらいしてよね…っいきなり人の部屋に入るなんてさ、常識が抜けてるよ…っ」
文句を言いながらもちゃんと目の前のねぎをみじん切りしている自分にちょっと同情してしまう。

「なーなーまだー?」
「まだだよ!少し待つとか出来ないの!?」
先ほど作り始めたばかりなのだから、まだかかるに決まっているだろう。

「だって本当腹減ったんだもんよー」
「そこらへんにある雑草でも食べてれば!」
「雑草って美味くないもん」
「食べたことあるのかよ!」

嫌味を言ったつもりだったのに、本気の回答が返ってきて少し焦る。食べるなよ、そんなもの!
今まで切ったものを混ぜ込んで、形を作ってフライパンに乗せた。

「んー、いい匂い!この匂いは…ハンバーグだな!?」
どんだけ食い意地がはっているのだろう。こんなにすぐ当てられた彼に少し呆れながら答える。

「そうだよ。もうすぐ出来るから大人しく待ってて」
フライパンに蓋を載せて、彼をちらっと見た。

ガイは言ったとおり、うきうきとした顔をしていたけど大人しく待っていて。
その様子が少し面白くて、小さく笑ってしまう。

いい感じに焼きあがったので、皿にのせた。そしてソースをかけて回りに野菜を置いて、盛り付ける。
うん、我ながらいい出来。

「おー!!うまそー!」
ガイの元に持っていったら、目を輝かせながらそういわれた。
そう言われると、悪い気はしないわけで…。あんなに不満を言っていたのが不思議な気持ちになってしまう。

「ほら、ちゃんと味わって食べてよ」
「わかってるって!いっただーきまーす!」
彼の前に皿を置いたと同時に食べ始める。そんなにお腹空いてたの?と思って笑ってしまう。
ガイはただひたすらに目の前のものを食べていて、僕は仕方ないので彼の前に座って注いできた水を飲む。
そんなに急いで食べて、喉に詰まらないのだろうか。
まぁガイにも水を汲んできたし、大丈夫だろうと思いながら食べ続けるガイを見つめた。

というか、何でいきなり僕のところに来たのだろう?
最初から思っていたことを今更ながら考えてみる。
お腹がすいたのなら、料理が得意でいつも近くにいるレイにでも作ってもらえばいいものを。
何故僕のところに?たまたま近くでも歩いていたのだろうか。

うーん、と唸りながら考えて、だけどすぐにま、いいやと思う。
相手はガイだ。考えたって、よくわからない。

目の前のコップを手にして、もう一口水を飲んだら、ガイはちょうど食べ終わったらしく。
「んー!ごっちそーさん!」
「本当に味わって食べたの?」
あまりの速さにそう聞いてしまうのは仕方が無いだろう。
折角僕が作ったものを、ただの腹の足しにしようなんてことだったら怒るからね。
いきなり押しかけられて、作らされた僕が可哀想だ。

「味わったって!美味しかった!シヴァの料理って結構美味いから俺好きだぜ。…味っこいけど」
「…それ褒めてるの?けなしてるの?」
「褒めてんだって!たまにすんげぇシヴァの料理食べたくなるんだ!」
「…要するに毎日は食べたくないってこと?」
「あーもう!なんでそんなに捻くれるんだよ!」
「もともと捻くれ者だから」

言って、少し納得する。たまに食べたくなるのたまにが、今日なのだろう。
だからいきなり押しかけてきたと。…なんて迷惑な話なんだろう。

「食べたんなら早く帰ってよ。僕やることあるんだから」
「何すんだよ?」
それはちょっとした口から出任せだったので、特にやることなど無い。だから、問われても困るわけで。
「な、何でもいいだろ!ガイの用事は済んだんだろ?もういいじゃないか」
「んー。ま、そうだな!ごっそさん!美味かったぜ!」

そう言って、立ち上がってガイは出口に向かう。
本当に、食べるだけが用だったのかと少し呆れてしまう。


「また来るから、また作ってくれよな」
笑顔で言われて、少したじろぐ。
こいつは、こういう屈託無い笑顔を向けてるから、少し困る。

「な、何で僕が!」
「だから、シヴァの料理好きなんだってー」
「う、うるさい!」

ガイの背中を押して、部屋から無理矢理出した。
「あ、ちょっと!」
ガイの抗議の声が聞こえるけど、気にしない。

「今度来るときは、先に何か連絡寄越してよね!」
そう叫んでドアを閉めた。そのドアに寄りかかる。

紅くなってしまった顔の口元を抑えて、脱力する。

「んー。またなー!」
そう叫んで、ガイが走っていく音が聞こえて、息を吐く。
あんなに屈託無い笑顔であんなことを言われたら照れてしまうのはしょうがないだろう。



いきなり来て、いきなりあんなことを言う彼。


本当、彼の行動は予測不能でわからないなぁ。


小さく溜息をついて、片付けのためにガイが残していった皿を手に取った。









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だってガイってば、『シヴァの料理は味っこいけど、結構美味い』って言ってたんですもん!(胸きゅん)