音が聴こえて、窓の外を見ると、思った通りで。
「雨、降ってるね」
部屋を叩きつける雨の音が、徐々に激しいものになっていく。
外は、どしゃ降り。

「止みそうにありませんね」
隣に座る、シンが言う。
ソファの前にあるテーブルの上に置かれた紅茶を手に取りながら、シンを振り返る。
「…何でそんなに嬉しそうな顔してるの?」
少し呆れながら、紅茶を口に含む。
するとシンはますます嬉しそうに笑って、僕を見ながら言った。

「これでは当分シヴァは帰れないなと思いまして」
思わず口に含んだ紅茶を噴出しそうになるのを必死で堪え、飲み込んだ。少しだけ咽て、涙目になる。
何恥ずかしいこと言ってるんだろう、コイツは。
怒鳴りたかったけれど、とても嬉しそうに笑われたらそんな気も失せてしまう。
小さく息を吐いて、自分を落ち着かせる。

「たかが雨じゃないか。帰ろうと思えば帰れるよ」
手に持っていたカップをテーブルに置きながら、僕は言った。
別に嵐がきたとか、そういうものじゃないんだし。
「駄目です。濡れるじゃないですか」
なんでシンに駄目だしされなければならないのだろうか。

「別に、少しくらい構わないよ」
少し意地になりながら答える。
どうせシンの家にだって傘はあるんだから、貸してくれればいいだろう。
「駄目です。風邪でもひいたらどうするんですか」
「もし風邪ひいたら大人しく寝てるから大丈夫だよ」
そもそも雨の中傘をさして歩くのに、そう簡単に風邪なんかひかないと思うけれど。
傘は雨を凌ぐためにあるんだから、そんなに雨にあたらないよ。

「私が大丈夫じゃないです。だから、雨が止むまではここにいてください」
断固として譲ろうとしないシンに、少し呆れてだけど少し嬉しくて、苦笑しながら言った。

「わかったよ。だけど雨止んだら帰るからな」
「はい」
笑顔で言われて、思わず視線を逸らす。本当に、何がそんなに嬉しいというのだろうか。
紅くなってしまった顔を必死で隠そうとするけれど、シンにはとっくに気づかれているようで、小さく笑われている。
なんだかなぁ。
そう思いながら目を瞑った。

シンも笑い終えたのか、聴こえてくるのは雨の音だけ。

一定の速さで打ち付ける雨の音が、心地いい。

軽く、隣に座っているシンの肩に頭を乗せる。
「シヴァ?」
少し驚きながら名前を呼ばれる。
そんなシンが少し面白くてつい笑顔になる。
そしてまた、聴こえてくる音に聞き入る。

「僕、雨の音って好きだな」
ポツリと呟く。
「落ち着きますよね」
「うん」

そしてまた、聴こえるのは雨の音だけ。



いつまでも雨が止まなければいいのに、なんて思うのは、この音の所為だろう。







『いきなりの雨』








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雨の音が好きーって話を書きたかったはずなんですけど、気づいたらメインはそれじゃなくなっててびっくりです(笑)
私、雨の音が好きなんですよ。