「ゴウってさ、瞳の色左右で違うよね」
そう言いながら、シヴァは俺の顔を覗き込んだ。
その顔の近さに驚いて、思わず一瞬息が詰まる。目の前の相手は、無意識でやっているのだろうからタチが悪い。
こんなに近寄られて、何もするなというのは辛い。誘ってるようにしか見えないぞ、シヴァ。
そう心で呟きながら溜息をついて、シヴァに視線を合わせた。

シヴァは興味深そうに俺の瞳を見つめている。
何が楽しいのか、ただひたすらに。


「やっぱりさ、左右で見える景色は違うの?」
「は?」

唐突に言われて、呆気にとられてしまう。瞳を見ていたかと思えば、そんなことを思っていたのか。
確かに俺の瞳は赤と青だが。

「別に、変わらないが…」
「瞳の色違うのに?」

そう首を傾げながら問いかけてくるシヴァが、可愛いと感じてしまうのは仕方が無いことだろう。
…落ち着け、自分。
自分の中で湧き上がる衝動を必死で堪えながら、表では何もないようにシヴァの問いかけに答えた。

「それじゃあシヴァは、景色が紫に見えるのか?」
「……そんなことないけど」
「それと同じだろ」

別に左右で違った色に景色が見えているわけじゃないし、そもそも赤青だからと言って世界が赤みを帯びていたり、青みを帯びていたりしているとは思えない。
見えているものは、シヴァと同じだと思う。

そう答えたら、シヴァは納得したようで。

「そう、か…」
少しつまらなそうに呟いた。

「楽しい答えじゃなくてすまないな」
「いや、別にそんなのいいんだけど…」
「だけど?」
少し俯きがちになってしまったシヴァの左腕を掴んで、持ち上げる。
それに誘われるように、シヴァも顔をあげて。

「ゴウの見えている景色が違ったら、それはとても凄いことだなぁと思っただけ」
そう言って、シヴァは微笑んだ。

「だけど僕と同じ景色が見えてるんでしょ?それはそれで嬉しいな」

目の前の相手は、今の状況を分かってそんなことを言っているのだろうか。
いや、分かってないから言えるんだろうな…。
…分からないなら、分からせるまで。
小さく笑って、俺の顔の高さまで持ち上げているシヴァの手首に、口づける。
ビクっと大きく反応を示してくれたシヴァ。顔を見れば、これ以上無いくらいに真っ赤だ。
その反応に少し気分を良くして、シヴァに向けて微笑む。

「ずいぶん可愛いことを言うんだな」
「な…っ!」

今まで驚きで身体の動きが止まっていたシヴァだったが、俺の一言で我にかえったらしく。

「は、離してよ…っ!」
身じろぎするけれど、俺は離さない。寧ろ左手を引っ張って、より近づける。
鼻が触れ合いそうな距離で止まって、彼の瞳を見つめる。

「シヴァ」
名前を呼んだら、また身体を震わせて。動きを止めて俺を見つめ返した。
俺は、囁くように言った。

「逃げるなよ」
「……っ!」

シヴァの顔は熟れたように紅くなっていて、恥ずかしさからか目を瞑っていて。
これはもう、おねだりされてるとしか思えないんだがな…。

思わず顔が緩んで、笑顔になってしまう。
こんなときに笑っているなど、きっとシヴァに気づかれたら怒られるだろうが、今シヴァは思いっきり目を閉じているから大丈夫だろう。

そういえば、赤と青を混ぜると紫が出来るよな、とふと思った。
ああ、俺はなんて素敵な色を持って生まれたんだろう。

そして彼に近づいて、瞼に口付けた。俺は、シヴァの瞳が大好きだよ。
真っ直ぐに俺を見てくれる瞳が、大好きだ。

「シヴァの瞳は奇麗だ」
思わず呟いたら目の前の相手は凄く驚いた顔をして、そしてその後きっと照れ隠しなのだろう、少し怒ったように、シヴァが言った。

「ゴウの瞳の方が奇麗だよ!赤と青で奇麗だ!」

その言葉がとても嬉しくて。


そうか、と微笑みながら答えた。







『混合色』









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手首へのキスは欲情ー!(何
えと、ゴウ兄さんに『逃げるなよ』と言わせたかったんです。そ、それだけ…。(笑)