たまたま通りがかった湖から、聞こえるはしゃぎ声。 こんなに暑いのによくそんなに元気だよね。なんて少し呆れながら通り過ぎようとしたんだけど。 「あれ、シヴァじゃん!」 …見事に見つかってしまった。 暑いときにこんなにうるさい奴らに構っていたら余計暑そうだから見つからないうちに退散しようと思ったのに。 片方の声に、あ、本当だーなんて言いながらもう片方も僕の方を向いて。 溜息を一つ零して、僕は彼らの方に向きなおした。 仕方ない。とりあえず適当にあしらってこの場を去ろう。 「何か用?」 「用ってわけじゃねぇけど。お前暑くないのか?」 そう問いかけてくるガイはマヤと一緒に湖の中に入って水を掛け合っている所為か涼しそうで。 本当に子供だなぁなんて思いながら答える。 「暑くないわけないだろ?今夏だよ」 「知ってるけどよ」 言いながらばちゃぱちゃ音を立てながら2人で僕に近寄ってくる。 僕に構わず遊んでればいいのに。 「シヴァも一緒にどう?涼しいよ」 なんてマヤが誘ってきたけれど。 「生憎僕は水の掛け合いをするほど子供じゃないんで」 「ってかお前服きっちり着すぎだろ!見てるこっちが暑くるしい!」 皮肉が通じなければ、暑苦しい相手に暑苦しいと言われてしまった。 「何だよ!僕がどんな格好してようが僕の勝手だろ!」 「暑いんじゃないの?ならもっと涼しい格好すればいいのに」 悔しくて怒鳴り返してみても、マヤに冷静に返されてしまう。 まぁその通りなんだけどさ。 僕はいつもと変わらない服を着ている。ボタンもきちんとしめて、長袖長ズボン。 少しも乱れたところはない。お陰で先ほどから汗が出てきているのだ。 我ながら暑いと思う。だけどこの服装を崩す気は無い。 「別に、いいだろ。お前らには関係ない」 「でも見てると暑いんだって!ほらっ」 そう言いながら、ガイが思いっきり水をかけてきた。 お陰で僕は頭から水を被ることになってしまう。 「ちょ…!ガイ!!」 怒鳴るけれど、2人は楽しそうに笑うだけで。 そう笑いながら、次々と水をかけてくる。 「やめろってば!」 そう叫ぶけれど、もう僕は全身びしょ濡れだ。 今更やめてもらったところで、濡れたことには変わりない。 「ガイ…!マヤ…!!」 「だって暑苦しい格好してるからさぁ」 「だから僕たちが鈴九してあげようと思ってね」 少しも詫びる気がない2人に、そろそろ本気で腹が立ってきて。 「僕は暑くなかったからいいんだよ!」 「嘘付け。暑いって言ったくせに」 「汗かいてたくせに。水あびてすっきりたでしょ?」 「迷惑だよっ!」 この2人と会話するねのは難しい。改めてそう思った。 ああもう、と大げさに溜息をついてとりあえずこの場をさろうとしたけれど。 「暑いんだったらもっと服開けばいいじゃん」 「ちょっと…!ガイ、やめろって…!」 捕まれて服の止め具を外された。それと同時に服が肌蹴る。 「あ」 マヤの声が上がって、僕は思わず顔を紅くさせながら後ずさる。 鎖骨の下に、手を当てながら。 「んあ?お前虫にさされたのか?」 ガイはそうのん気に聴いてくるから、気づいてはいないようだけど。 僕は恥ずかしくて頭が破裂しそうだ。 声が出せずに硬直していたら、マヤが笑い出した。 「そっか、そうだよね。ごめんね、気づかなくて」 何が、そうだよね、なんだよっ!! 叫びたいけれど、やっぱり声が出ない。 「あ?何だよ、マヤ。お前虫さされがあるって気づいてたのか?」 「うん。シヴァだもんね。ごめんね、気が回らなくて」 「へ?シヴァってさされやすいのか?」 何だよ、何でそんなに知った感じなんだよ…!! 右の鎖骨の下にあるのは、最近シンにつけられたもので。 痕を残すなと言っているのに、いつの間にか残す奴だから。もしかしたら僕の見えないところにもあるのではないかと思うと、気が気でない。 そういう理由で服をきちんと着ていたのだ。 「べ、別に何でもないんだからな!」 「うんうん。虫にさされたんだよね」 そんなに笑いながら答えるなっ! 「虫さされの薬やろうか?」 こっちはこっちで虫さされだと信じてるし。 気づかれても嫌だけど、虫刺されだと信じられても困る。 薬貰ったとしても、使わないし。というか、使えないし。 「ここからならシンさんの家近いから、タオル借りてくれば?凄く濡れちゃってるし」 「誰の所為だと思ってるんだよ…!」 「僕らの所為だよ。わかってるから、早く行きなって」 なんて言いながら、先ほどは散々引き止めていたくせに今度は帰らせようとするのかよ。 そんなマヤのなんでも知っている態度が少し悔しい。 ガイはガイでさっぱり気づかないし。 「それとも、送って行ってあげようか?」 なんて凄く笑いながらマヤが言う。面白がりすぎだっ! 「うるさい!僕は自分の家に帰るんだよ!もう用事は済んだし、帰ろうと思ってたの!それじゃ、帰るからっ!」 そう言いながら湖から離れる。 髪の毛から水が滴ってくるけれど、気にしない。 服もちゃんとしめて、後ろの笑い声も無視して。 こんなに暑いのに、僕の服がこんなにきちっとしてるのも。 顔がとても紅くなってしまっているのも。 全てシンの所為なんだからな! 『水かけっこ』 ―――――――― この後のシンの登場も書こうかなーと思いましたが、なんとなくシンが出ないままで終わらせたかったのでここで終わります。 |