『sing a song』



木の枝に座りながら、ブラブラと足を振る。
それは口ずさむリズムに合わせて、一定の速さで。

「何の歌ですか?」
振っていた足を止める。
下を見下ろすと、こちらを見上げているシンと目が合った。
いつの間にきたのか、本当にこいつはつかめない奴だと思う。

「さぁ?」
何で僕が教えなきゃいけないのさ、と付け足してまた足を振り出した。
シンから目を逸らして、近くにある木を見つめる。
ただひたすらに、そのリズムを口ずさむ。それはどこか哀しい、旋律で。

何の歌か、なんて僕も知らない。
たまたま耳に入ったこの曲。それがずっと頭の中で流れているのだ。
どこか哀しげなメロディが胸に焼き付いて離れない。




「シヴァ」
呼ばれて下を見る。
「まだいたの?」
「貴方に逢いに来たんですよ」
「何か用?」
「特に用はありませんけど」

先ほどと同じように、僕を見上げているシンを少し呆れながら見つめた。
「じゃあ何なのさ」

「だから、貴方に逢いに来たんですよ」
「用も無いのに?」
「はい。ただ貴方に逢いたかったんです」
「じゃあもう逢えたでしょ。そろそろ帰りなよ」

いつまでいるつもりなのさ。
最初に声をかけてきてから、どれだけの時間がたったことか。
正確に時間を計ったわけじゃないから、詳しくはわからないけど、それなりに時間はたったはずだ。
ただそこにいる、というのも僕にしてみれば迷惑でしかない。
用が無いなら早く立ち去って欲しい。

「いえ、まだ帰れません。シヴァが歌ってる歌が何なのかまだ聞けていませんから」
「…それが聞きたくてずっといたわけ?」
「まぁ少しは。あとは貴方の傍にいたかっただけです」
「……なにそれ」

傍にいたいだなんて、つまらなすぎる冗談で、馬鹿らしい。
鼻で小さく笑って、シンから視線を逸らした。

僕の傍にいたいとか言って、ただ僕の行動を監視してただけなんじゃないの?
ユダに近寄らないように?
とにかく馬鹿らしくて、相手にしてられない。

先ほどずっと歌っていた歌を、少し口ずさんだ。
「…僕も何の曲か知らないよ。ただずっと頭からはなれなかっただけ」
頭から離れない、切なげなメロディ。
それが流れる度にとても哀しくなってしまって、いつもは登らない木の枝に登って、ひたすらその歌を口ずさんでいた。
風に当たりながら、声に出して歌えば少しは気分も晴れるかと思ったんだけど。

全く効果がなくて、困ったものだ。
寧ろ気分がよくなるどころか、シンがやってきて少し腹がたつ。

「そうなんですか」
気になっていたらしい答えを言っても、シンは全然動く気配は無い。
僕が帰った方が早いかもしれないと思い、足の下を伺う。大丈夫、飛び降りるだけのスペースはある。

身を乗り出して、飛び降りようとしたときに、シンがポツリと言った。
「……切ない曲ですね」
「……そう?」
歌詞なんてあやふや、覚えていたのはリズムだけ。
そんな歌の、何がわかるっていうのさ。

「歌ってるシヴァが、切なそうです」
「……何、言ってるの?」

驚いて思わず身体の動きが止まる。

「シヴァの声が、泣きそうでしたから…」

そんな声、してたの?
驚いてシンを凝視してしまう。シンがゆっくりと、上を見上げて、僕の瞳を見る。

「大丈夫ですか?」

問いかけてくるシンの顔は、どこか苦しそう。

何で、お前がそんな顔するんだよ。
何で、そんな僕のところに来たんだよ。
きっと、逢いにきたなんてのは嘘で、たまたま僕の歌が聞こえたからやってきたのだろう。
だけど、何で?

「…ほっとけばいいじゃない」

何で、お前がここに来るんだよ。

「ほっとくことなんて、出来ません」
きっぱりとそう言われて、無性に腹が立った。

「ほっといてよ!お前なんかに心配されたくない!」
叫んで、その場から飛び降りた。
着地したときに、そうですかと掠れた声で聞こえたけれど、気にしない。

シンとは逆の方向を向いて、駆け出そうとした、んだけど。

「…放してよ」
シンに腕をつかまれて、それを阻止される。
振りほどきたくても、力が強くてほどけない。

「…何か、あったのなら、言ってください」
少し控えめで、だけど芯の通った声で言われる。

「……なんでシンに話さなきゃいけないわけ?」
「…一人で泣かないでください」

何でお前に、そんなこと言われなきゃいけないの?

「…るさいな!ほっといてよ!!」
力の限り腕を振って、シンを振りほどく。


「もう僕のところにこないで!」
「シヴァ…っ」


全速力でその場を離れる。



何でお前なんかに心配されなきゃいけないんだよ。
思わずあの場で泣き出しそうになってしまいそうになったことが、悔しい。




辛いよ、苦しいよ、切ないよ、泣きたいよ。
もう、わけがわからないよ。

「ユダ……っ!」

声にならない声でそう呼んで、泣くもんかと下唇を噛んだ。





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ユダへの恋ももうそろそろ駄目かなぁと思ってるシヴァさんと、シヴァが好きでしょうがないシン。
シヴァは、ユダとシンはラブラブだと信じてますから、シンに対して冷たいのです。