僕は返されたテストを見て驚いた。それはもう心底驚いた。
授業が終わって、真っ先に外に飛び出した。お気に入りの木の下で、もう一度答案用紙を見返すけれど、変化なし。
先ほどみたのと同じ結果に、思わず頭が真っ白になる。
ど、どどどどどどどどどうしよう!?

「どうでしたか?」
いきなり後ろから声をかけられながら、覗き込まれそうにそうになったので、慌てて答案用紙を隠す。
シンが来るであろうことはなんとなく予想できていたので、驚かない。だけど、この答案用紙を見られるわけにはいかないのだ。
「い、いやぁ、もうバッチリ!シンに教わったお陰だね!ははははは。それじゃ!」
そういって踵を返そうとしたけれど、シンに腕をつかまれて動けない。
びくつきながらも答案用紙だけはしっかりと握ってシンの目に触れないようにと隠し続ける。

「それなら答案用紙見せてくれてもいいんじゃないですか?今後のために復習もしないと…」
「いや、大丈夫!復習なら一人で出来るし!そこまでシンに迷惑かけられないよっ!」
とにかく逃げなければ。シンから遠ざからなければ。シンにこの答案用紙を見せてはいけない、と思って、立ち去ろうとするんだけど。

「いいえ。むしろ私としてはシヴァの一緒に勉強できて嬉しいくらいです。迷惑などではありませんよ」
なんて笑顔で言っているけれど、僕の腕を掴んだ手は離さない。
…絶対僕のこと疑ってるだろ。……まぁそうなんだけどさ。

……勉強を教わってたときにシンが言ってた、『70点以下だったらお仕置きですよ(笑顔)』は、本当に行われるのだろうか……。
思わず汗をかきそうになるが、ここは平常心平常心。ばれなきゃ大丈夫だろ、と腹を括ってシンを見返す。
……テスト、自信はあったんだけどなぁ。シンの教え方分かりやすかったし。

「…うんわかった。有難うシン。今度また一緒に勉強しよう。だから手、離してくれない?」
少し引きつらせながらも笑顔をつくって言ってみたけれど、シンの奇麗な笑顔にすぐさま返される。
「嫌です。答案用紙、見せてください」
「う…。ぼ、僕も嫌だよっ」
「何でですか?バッチリだったんでしょう?」
笑顔が眩しいよ、シン。だけどその笑顔が腹黒いよ、シン。

「だけど…っ!」
「だけど?」
「……嫌なものは嫌なのっ!」
「…しょうがないですねぇ」
なんてわざとらしく溜息をつきながら、僕の腕を掴む力を弱めたかと思ったら、反対の手でいきなり答案用紙を持っていた腕をつかまれた。…油断した。

「ちょ…シンっ!」
反抗してみるけれど、全然相手にされず。あっさりと僕の答案用紙はシンの手の中。
シンは僕の答案用紙をまじまじと見た。
「これは…」
何だよっ!言いたいことがあるならもったいぶらないで言えよっ!

「…解答欄、途中から1個ずつずれてますね」
「悪かったな!」
そう、最初の方はいいのだが、途中から解答欄が1個ずつずれているのだ。お陰で答えはあっているのに、バツになっているところが多数。
「ドジですねぇ…」
「うるさい!」
そんなこと、言われなくてもわかってるよ!
解答欄がずれている所為で、シンが言っていた70点には遠く及ばない。…解答欄さえずれていなければ、ギリギリ越えられたはずだったのに…!

シンは今度は本当に、溜息を零した。
気が立っていた僕だけど、それで思わず我に帰る。
「ご、ごめん。シン…。シンに教えてもらって、シンの説明分かりやすくて理解も出来て、今回のテストはいい点とれると思ったんだけど…。ごめん。」
シンだってテスト勉強したかっただろうに、僕の面倒見させちゃって。それなのに僕はこんな結果で。本当に、ごめん。
僕は申し訳なさでいっぱいになる。
そんな僕を見て、シンは少し驚いたあと、微笑んだ。
「いいですよ。それに、貴方が謝ることではありません。先ほども言ったように、シヴァと勉強できるのは嬉しいですから。それよりも、今度のテストは気をつけましょうね」
「うん…」
落ち込んで、つい俯きがちになってしまっていた頭に、そっと手がのせられる。
「今日、帰りに何か食べに行きましょうか。奢りますよ」
「え、悪いよ」
「いいえ。テスト勉強頑張ってましたから、私からのご褒美です」
その言葉に、思わず泣きそうになる。
ごめん。勉強教えてもらったのに結果に出せなくて。そんな自分が悔しくて、それでも優しくしてくれるシンが愛おしくて。

「シン……」
涙目になりながらも、ありがとう、とお礼を言おうとしたら。

「もちろん、その後は私の家でお仕置きですよ」
笑顔で言われた。それはそれは楽しそうに言われた。

「……え」
「約束、でたよね?」
「僕は約束した覚えなんてない!」
だれかいつ了解したのかっ!!シンが勝手に言ってただけじゃないかっ!!
と思ってはみるものの口に出せず。

「大丈夫です。明日は土曜日ですから」
「全然大丈夫じゃない!!」


なんて返しながらも、やっぱり僕は帰りにシンにたらふく奢ってもらった後、シンの家に行ってしまうのだった。
次のテストはシンに頼るもんか!









『テスト問題』






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moreのジャケットで妄想したことです。(笑)
きっと次のテストは凄く困るんだろうなぁ、シヴァ。シンに頼らないって決めたから。(笑)