『とにかく貴方に』



本を読んでいたら。
なんだか今すぐ彼に逢いたくなって。

自分の部屋を飛び出して、彼の部屋へ向かう。
ドアをノックしたけれど、返事は無い。
「出かけてるのかな…」
小さく呟いて、彼が行きそうな場所を考える。
だけど、思いつく前に身体を動かした。どこだかわからないけれど、とにかく貴方に逢いたい。

とにかく、走る。
草木を避けながら、兎にも角にも走る。

どこにいるんだろう。
名前を呼べば、見つかるかな?

「あれ?シヴァ?」
名前を呼ばれて、動かしていた足を止めた。
「ガイ…マヤ…」
走っていた所為で、少し息が切れながら、そこにいた2人の名前を呼んだ。
2人は、少し驚いたように僕を見ていた。

「どうしたんだよ?そんなに息切らして」
「何かあったの?」
「……シン探してるんだけど、知らない?」
色んなところに探検と称しても潜り込んでいそうな2人なら知ってるかと思って、問いかける。

「シン?シンがどうかしたのかよ?」
「ああ、シン兄さん?うーん…。見て無いなぁ…。ゴメン、わからないや」
不思議そうな顔をしているガイを遮るように、マヤが答えた。
僕がシンと言ったときに、納得したような顔をしたのは何故だろう。

ふと疑問に思ったが、問いかけている暇も今は惜しい。

「そっか。有難う」

言うと同時に、駆け出した。
一体彼はどこにいるのだろう。

丘の上にも、泉のほとりにも、いない。

「シヴァじゃないか」
呼びかけられて、立ち止まる。
「ゴウ…」
「どうしたんだ?そんなに急いで」
修行でもしていたのだろうか、ゴウの額には汗が浮かんでいる。
そういう僕の額にも、汗が浮かび始めているんだけど。

「シン探してるんだけど…知らない?」
先ほどガイとマヤに言ったセリフをもう一度言う。
こんなに探しているのに、彼は一体どこにいるというのだろうか。

「シン?うーん…。俺はずっとここで修行していたからなぁ…。見ていないな」

「そっか。有難う」
ゴウらしい、と思いながら、駆け出した。


散々走り回っても、見つからなくて。
疲れてしまって、木に寄りかかって乱れる息を整えた。
額に浮かぶ汗を、手の甲で拭う。

いつもは呼ばなくたって、勝手に出てくるくせに。
何で逢いたいときに限っていないんだよ。

溜息を一つ、零した。

「…シン」

「シヴァ?どうかしたんですか?」
いきなり問いかけられて、驚いて顔をあげた。
「……レイ」
「どうしたんです?こんなところで。そんなに汗かいて…。」
どうぞ、といいながら、レイは僕にハンカチを差し出した。
奇麗なハンカチで、使うのが勿体無いと渋っていたら、レイにハンカチで汗を拭き取られてしまう。
止めようとしても、レイに遮られてしまって。仕方が無いので、僕は小さく俯いて、抵抗するのをやめた。

「どうしたんですか?何かあったんですか?」
汗を拭きながら、僕の顔を覗き込んでレイが問いかける。

「シン……を、探してるんだけど……」
見つからなくて。こんなにも逢いたいのに。

「シン?シンなら先ほど逢いましたよ」
「本当!?」
シンの居場所を知っている人を見つけたことが嬉しくて、思わず勢いよく聞き返してしまう。
そんな僕に微笑みながら、レイは続けた。

「えぇ。本を借りてきたから、部屋で読むと言ってました。シンの部屋へいけば、逢えると思いますよ」
はい、これで大丈夫、と言って、レイはハンカチをしまった。汚してしまったことが申し訳ないが、今は正直それどころじゃなかった。
部屋ならちょっと前に行ったのに。見事にすれ違ってしまったらしい。

だけど。やっとシンの居場所がわかった。
「有難う!」

そう告げて、駆け出した。




ノックする暇も惜しくて、勢いよくドアを開けた。
「シン!」
部屋の中にいたのは、椅子に座って、目の前のテーブルに本を広げて。そして僕を見て驚いているシン。

やっと逢えたことが嬉しくて。目の前にいるんだと思うと、たまらなく嬉しくて。

「シヴァ?どうしたんですか、そんなに急いで…」
立ち上がって僕の方に近づいてくるシンに向かって、僕は勢いよく近づいて、そのままシンの首に抱きついた。

「シヴァ!?」
驚きながらもシンは倒れないように足に力を入れて。
なんとかバランスを取って、シンは僕の頭を撫でながら聞いた。

「どうしたんですか?貴方から抱きついてくるなんて珍しい」
「……逢いたくて」
ただ、シンに、逢いたくて。

逢って、ただ抱きしめたかった。
貴方がいるということを感じたかった。

「……探したんだよ」
「…すいません。ちょっと本を借りに出かけてたもので……」

申し訳なさそうにシンがそう答えて、僕の背中に手を回した。
シンはぎゅっと抱きしめる。

「シン……」
名前を呟いて、僕も抱きしめる腕に力を込めた。

「シヴァ」
呼ばれて力を緩めて、彼を正面から見つめれば、嬉しそうな笑顔を向けられる。
そんな彼が愛おしくて。

腕は回したままで、瞳を閉じて、彼に近づいた。






――――――――
何がしたかったかっていうと、シヴァに、シンに抱きついて欲しかったんです。
ぎゅって抱きつくのっていいと思う。とりあえず抱きつき抱きしめっていいと思う。

あとは個人的キャラ設定公開です。(笑/何)
ガイはシンとシヴァの関係なんかまったく知らなくて。いつも元気にはしゃいでる子。
マヤはシンとシヴァのことは知ってて。微笑ましく思ってる子。ってかシヴァが幸せそうなのを見て、嬉しく思ってるんです。マヤ→シヴァな勢いです。(笑)
ゴウは気づいてなさそう…。
レイは気づいてて、シンのために一生懸命なシヴァのこと可愛いなぁとか思ってます。

個人的にガイとマヤとシンシヴァの絡みが書きたい今日この頃。