やっぱり僕はまた木陰にいる。
ここから出ることは出来ない。
この距離から、彼に近づくことは出来ない。

好きだよ。彼のことは変わらず好きだ。だけど、この一歩が踏み出せない。

一人で言い訳をして、情けなくなって木に寄りかかる。
溜息を一つ零して、俯いた。

どうして僕って、こうなんだろう。

いつまでたっても好きだと言えなくて、いつもいつも木陰から彼を見ていた。
この間彼に告白されたときは嬉しくて仕方がなかったのに。

嬉しすぎて、どうしていいのかわからないんだ。

前はとにかく僕の気持ちに気づいて欲しくて、ひたすら彼に近づいていったけれど。
彼の気持ちを聞いて、僕の気持ちに気づいていてくれたと知って、前より距離は縮んだはずなのに。

前は、どうやって声をかけていたっけ。
前はどうやって彼に近づいていった?

思い出そうとするけれど、彼のことで思い出せるのはこの間の彼の告白場面だけで。
嬉しくて、嬉しすぎて。

…夢なのでは、と思ってしまう。

彼に逢ってみて、実はこの間のことは夢だったとか。実際は違うとか。ただの僕の勘違いだとか。
彼の告白は嬉しすぎて。…もし違ったら、と不安が過ぎってしまう。

だから彼に逢って、違うといわれるのが怖いんだ。
だから、どうしていいのかわからない。

逢いたいけれど、逢いたくない。

彼に逢いたくないと思うなんて、初めてなんじゃない?
自嘲的に笑って、地面を蹴った。


なんで素直に喜べないんだろう。
こんなに疑って、夢でなかったとしたら彼に申し訳ない。

「好きでいていいのかな…」
呟いた言葉はすぐに空気に溶けていく。

ずっと見てきたから知っている。彼には僕でなくてもたくさん相手はいるだろう。
こんな風に、思ってしまうなんて。

「これならいっそ、前のままの方が楽だったかもしれない…」
呟いたら、身体の力が抜けて、その場にしゃがみ込んだ。
膝に顔をのせて、涙が零れそうになるのを堪える。

何でこんなことを思ってしまうのだろう。
嬉しいはずなのに、嬉しいのに。
自分に、腹が立つ。


「…すまないな」
声がして驚いて顔をあげた。

「ユダ……」
いつの間にここに来たのだろう。さっきまでは少し離れたところにいたのに。
そんなことを思ったけれど、彼の顔を見るとそんなことはどうでもよくなった。

「ユダ…?」
逢ったら全てを否定されるのではと一人で悩んでいたけれど、そんなこともどうでもよくなってしまった。
ユダの表情は、苦しそう。

「おれが、いきなりあんなことを言ったばっかりに…。考えの無い発言ですまなかった」
ゆっくりと僕に近づいてくる。

「ユダ?」
僕は言葉の意味がわからなくて、ただ彼を見つめる。
ユダは僕のすぐ近くで立ち止まって、僕と視線を合わせるように膝をついた。

「すまなかった。迷惑だったな。無理して受け入れてくれなくていいんだ。この間のことは忘れてくれて構わない」
そこまで言われて、やっと意味が理解できた。
「ちがっ…!」
首を振る。そうじゃない。貴方の気持ちが迷惑なはず、ない。

「だが、前のままの方がいいのだろう?」
「……っ!」
まさか聞かれていたなんて。

「俺は気にしないから、お前も気にしないでくれ」
そう言って頭に軽く手が触れて、温もりを感じる前に離れた。
驚いて顔をあげれば、彼はもう背中を向けて歩きだそうとしていて。

「待って!」
手を伸ばす。
辛うじて届いて、彼の服の裾を引っ張る。

「違う、そうじゃなくて!迷惑なんかじゃない!寧ろ嬉しい!だけど、嬉しすぎて…現実なのか自信なくて…夢なんじゃないかと思って…っ怖くて、なんかもうよくわかんなくなって…っ」
首を振りながらとにかく喋る。
何か言わないと、彼はすぐにどこかに行ってしまいそうだったから。

「シヴァ、」
「だって、信じられなくて。ずっと前から貴方が好きで、ずっと片思いだったから、まさか貴方がそんなこと言ってくれるなんて思ってなかっ、」
涙が零れそうになるのを堪えながらそう言葉を紡いでいたら、いきなり口を塞がれて驚いた。

頭を今度はゆっくりと撫でられる。
吐息が触れる距離でユダが言った。

「夢じゃない。俺は確かにシヴァ、お前が好きだ。…すまない。色々考えさせてしまったんだな」
「…っ!ユダは悪くない…!」

全ては、貴方を信じられていない、僕の所為。

「いや、お前をそんなに不安にさせてしまった俺が悪いのだ。すまない」
「違う、僕が悪い」
そう答えたら、ユダは僕の後ろ頭に手を当てて、抱きしめた。

「俺は、シヴァが好きだ」
「…うん」
耳元で囁かれる言葉が気持ちいい。
おずおずと彼の身体に手を回しながら、僕も言った。





「僕も、ずっと前からユダが好きだよ」











『夢のような出来事』






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ユダシヴァ告白後。

これの後に、『という夢を見た』と続けようかと一瞬思ったのですが、それだとシヴァが可哀想すぎてしょうがないのでやめておきました。(笑)
夢じゃないですよ!(笑)
ユダシヴァラブラブ!いえーい!やったね、シヴァ!

四聖獣も終わったし、ユダも書いたから…次はルカでしょうかね…?(とりあえず全員とくっ付けよう作戦実施中)