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それはこれ以上ないくらい悔しいことだが、今までにも何度かこういう状況になったことはあった。 手紙で呼び出されていってみれば何故かこうなっていたり、話かけられたかと思ったらこうなっていたり、いきなり密室に引っ張られてこうなっていたり。 過去に何度もあったことだが、それら全て、相手を殴って回避してきた。 冗談じゃない。こんなこと、気味が悪い。俺は男だ、ふざけるな。 そう思って相手を再起不能くらいまで殴り倒していたのだが。 今回ばかりは正直困った。 ここは相手の部屋。 いつものように俺がこの部屋に来たら、何故かいきなりドアにロックをかけて、こんなことになってしまったのである。 「…おいアスラン」 相手の名前を呼ぶ声は、怒りに震えてしまう。 だが腹を立ててしまうのも仕方がないだろう。 いつものようにチェスの勝負をしにアスランの部屋にきたら、何故かいきなりベッドに押し倒されたのだから。 「なに、イザーク」 「…なんのつもりだ」 早く退けろという意味を持たせながら相手の顔を睨みつけるが、アスランはびくともしない。 俺が睨みつけてもアスランは微笑んでいるばかりだ。 「何のつもりって…イザークが考えてるものと同じだと思うけど」 なんてことを、ケロリと言われた。 「ふざけるな!」 「ふざけてないよ。本気」 怒鳴りながら暴れてみるけれど、両腕はアスランに抑えられていてビクともしない。 力で負けているのが悔しくて仕方がない。年下のくせに! 「…避けろ」 爆発しそうな怒りを抑えながら、精一杯低い声でアスランを睨みつけながら言ってみたけれど。 アスランは相変わらず微笑んでいて。そればかりか、俺の頬に軽く口付けながら言った。 「嫌だ」 「貴様…!」 思わずカッとなって殴ろうと思ったが、相変わらず腕は動かない。 いい加減にしろ、と怒鳴ろうとしたら、いきなり口を塞がれる。 驚きのあまり、一瞬頭が真っ白になってしまった。 どうしてこんなことになっているのだ。 今までこういう状況になったら、すぐに相手を殴ってその場を去ってきたのに。 全ては、こいつの所為だ。 恋人というポシジョンにいるこいつのせいで、本気で抵抗が出来ないのだ。 だがそれとこれとは別で。嫌なものは嫌なのである。 「…好きな子が欲しいって思うのは、当然のことだろう?」 アスランが顔を離して、問い掛ける。 一般的にはそうなのかもしれないが。 「…だが俺は男だ」 「構わないよ」 「俺が構う!」 男同士で一体何をしようというのだ。そもそも男に押し倒されることほど屈辱的なことはないというのに。 「俺はイザークが好きなんだから、男だとかなんて関係ないよ」 「俺は関係ある!そもそもできるわけがないだろう!」 「出来るよ。大丈夫」 「何が、大丈夫だ!」 俺がそう怒鳴ったら、今まで微笑んでいたアスランが少し寂しげな顔をした。 視線を落として、呟くように言う。 …そういう表情をされると、困る。 「…イザークは、俺のこと好きじゃないんだ?」 「…っべ、別に、そんなことは、言ってない!」 「でも嫌なんだろ?」 だから…!そういう顔は卑怯だ…! 「だからそれは…」 「俺のことが嫌いだから、イザークは嫌なんだろ?」 「そういう…わけじゃ…」 ない、と続けようとした言葉は、アスランの満面の笑みと言葉にかき消されてしまう。 「それなら、いいよね?」 「貴様…!」 この態度の変わりようは何なんだ。先ほどのあれは演技だな。演技に違いない。 ついうっかりほだされそうになってしまった自分が悔しくて、目の前の相手を力いっぱい睨むけれど、効果はあまりない。 「好きだよ、イザーク」 だから、そんな優しい声でそんなことを囁かれても、許さない。 「好きだ」 言いながら額に口付けられる。こういう口付けに、嫌悪を抱かないのは何故だろう。 「イザークが、好きだ」 耳元でそう囁かれて、耳朶を舐められる。思わず身体が震えてしまい、恥ずかしさで顔が赤くなってしまう。 「…っアス、ラン…!」 彼を睨みつけるけれど、アスランは相変わらず微笑んでいて。 「俺はイザークが好きだよ。イザークは?」 「…っ」 なんてことを聞くのだ。そんな恥ずかしいこと、簡単に口に出来るはずがないだろう。 恥ずかしさと悔しさで顔を赤くしながら睨みつけていたら、アスランはより一層微笑んで。 「ねぇ、目瞑って?」 顔を近づけながら、アスランが言う。 ここで目を瞑れば、どうなるかなんて分かりきったことだけど。 男同士だし、ありえないと思っていたが。 恋人と思っている相手なのだ。本気で抵抗できるわけがない。 そもそもそんな優しい声に、逆らえないのだ。 それでもただ大人しく目を瞑るのは悔しくて。 「アスラン…っ」 睨みつけながら名前を呼べば、目元に口付けがひとつ。 「ねぇ、イザーク」 お願い、と小さく囁かれて、俺は溜息をこぼす。 なんだかんだ言って、やはりこいつが好きなのだ。こんなこと他のやつにやられたら間違いなく半殺しにしてやるが、相手はアスランなのだ。 本気で嫌なわけがない。 正直怖いが、そんなこと悟られるのも悔しいので。 「ふんっ下手だったらすぐに殴り飛ばすからなっ」 そう言ったらアスランは苦笑を浮かべながら答えた。 「精一杯頑張るよ」 そして近づいてくるアスランを受け入れるように、俺は瞳を閉じた。 緊張のあまり涙が零れてしまいそうになり、力いっぱい瞳を瞑る。 するとアスランが少し顔を離して大丈夫だよと囁いて、また口付けた。 一体何が大丈夫なんだお前も俺の立場になってみろとか色々叫びたかったけれど。 なんだかんだ言って惚れてしまっている自分がいるのだから仕方ないのだろう。 何時の間にか開放されていた両腕をアスランの首に回して、抱きついた。 『唐突に』 ――――――― 終わらない…!(笑) 無理矢理終わらせてみた。 |