04.恥ずかしくて目もあわせられない










「立てるか?」
兄ちゃんに買ってもらったスポーツドリンクを長い時間かけて飲み終わった時に、太陽の光を遮ってオレの前に立っている兄ちゃんに顔を覗き込まれた。
長いこと休んだし、額の汗も少しだけひいてきたんだけど。

「…無理っぽい…」
身体は相変わらずだるい。兄ちゃんの影にいるから光は直接当たらなくて、少し涼しいような気がするんだけど、やっぱり暑いものは暑い。
せめてもう少し涼しかったら、体力も回復するんだろうけど。

「だけどもうちょい休めばだい…うわっ」
大丈夫、と続けようと思った言葉は兄ちゃんのいきなりの行動に遮られてしまう。
「ちょっ!兄ちゃん!!下ろせって!!」
足をジタバタと力なく動かしても、背中を力なく叩いても効果なし。
「だって立てないんだろ?」
「だからって担ぐな!!」
兄ちゃんの肩に担がれながら、力の限り暴れる。
「んだよ。こうでもしなきゃ帰れないだろ?」
「だからもう少し休ませてくれれば…っ!」
「それじゃ陽ぃ暮れるって」
空は只今真っ赤に染まっている時間。よい子はもう家に帰っているから公園にはもう人影はあまりないけれど。
「でも恥ずかしいんだって…っ!」
何が悲しくて高校生にもなって担がれなきゃいけないんだ。ガキじゃあるまいし。

「……ったく」
少し悩んでから、兄ちゃんはオレを下ろした。安心したのも束の間、すぐに兄ちゃんはオレに背中を向けてきて。
「ほれ」
「…………何?」
「決まってんだろ?」
絶対今面白くてたまらないだろ。声がかなりはずんでるぞ、兄ちゃん。
「いやだ」
おんぶだなんて、恥ずかしすぎる。だからもう少し休ませてくれれば自分で歩けるってば。…多分。
「……それじゃ担ぐぞ」
「げっ」
それだけは嫌だ。本気で勘弁願いたい。担がれるなんて恥ずかしすぎる。
オレは渋々ながらも兄ちゃんの背中に身体を任せた。


カラスの声と、住宅の中から微かに聞こえる生活の音と、兄ちゃんの足音だけが響き渡る。
オレは恥ずかしくて顔をあげられないから、兄ちゃんの肩に顔を埋めていて。
視覚がないからか、小さな音がとても大きく感じられる。一定のリズムで聞こえてくる兄ちゃんの足音がなんだか気持ちいい。
ってかさっきまでオレと同じ距離走ってたんだぜ?兄ちゃんは疲れてないわけ?
全然疲労が感じられない足音に、また気落ちしていく。
どうやったら、兄ちゃんに追いつけるのだろうか。
いやいや!オレなりに頑張るってさっき心に誓ったばっかりじゃないか!オレはオレのペースで頑張るんだよ。

でもなぁ。
何だか兄ちゃんの足音が憎らしい。

何でこんなに普通に歩いてるんだよ?
もっと疲れた雰囲気出したっていいんじゃねぇ?
オレとアレだけの距離走って、そんで今はオレを負ぶって歩いてるんだぜ?

「……疲れてないのかよ?」
思わず口にだして問いかけてしまう。
だって兄ちゃんがあまりにもいつも通りだから。

「んー?…結構疲れてるけど」
「…嘘つくなよ」
「嘘ついてどうするよ?」
苦笑しながら兄ちゃんはオレの方に視線を向けた。思わず顔を上げたオレは兄ちゃんと視線が合う。

「オレだって人間なんだぞ。疲れるにきまってるって。」
「…それじゃ」
「でも、空君の為にオレは頑張りますよー」
疲れてるなら下ろせ、と言おうとしたところを遮られる。
というか、別に無理しなくても。
寧ろ無理しないで欲しい。
「いいんだよ。オレがしたくてしてるんだから。」
「でも」
オレとしては申し訳ない気持ちでいっぱいだ。無理して兄ちゃんが身体壊したりしたら、本当に困るし。
だけど兄ちゃんはそんなオレの気持ちもお構い無しに、オレの方を見ながら真剣な顔をして言った。


「…兄ちゃん。空だから頑張ってるんだぞ?」



「………なっ…なななな何言ってんだよ!?」
一瞬言われた意味がからなくて固まってしまったけれど。言われた言葉の意味を理解してオレは大慌て。思わず兄ちゃんの肩から手を離して、身体を起き上がらせる。
「とっ、危ねぇぞ」
バランスが崩れたオレをなんとか抱えなおして、兄ちゃんは再び歩き出す。
本当に何もなかったかのように振舞うから、意識してるこっちが余計に恥ずかしい。

「兄ちゃんっ!!!」
「はいはいはい。とりあえず大人しくしてくれると嬉しいなー?」
上目遣いでオレを見るけれど、オレは目を合わせられない。

紅くなってしまった顔を見られたくないから、また兄ちゃんの肩に顔を埋める。
くすくす笑う兄ちゃんの身体が小さく揺れる。それがまたなんだか恥ずかしかった。


無駄に早くなった心臓の音に気づかれたくないけど、背負われてるんだから多分兄ちゃんには筒抜けなんだろうな。
そう思うと、悔しいやら恥ずかしいやら。


「今日の夕飯なんだろうなー」
そう歌うように言う兄ちゃんの声と、カラスの声と、住宅から聞こえる生活の音が、肩に顔を押し付けている所為で視覚が無い今のオレには、とても大きく響いた。







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遠い昔に途中まで書いて…。
何書こうとしてたのかよく覚えてなかったから…頑張りました…(苦笑