『寝てますか?』




「・・・何だよ」
探偵の仕事が終わって少し遅い時間になったので兄ちゃんの家に戻ってきたら、リビングに電気がついていたから。
まだ起きてるのかな?と思いリビングのドアを開けたのだけど、聴こえてきたのは規則正しい吐息。
音を立てないように近づいて、ソファで横になってる兄ちゃんの顔を覗き見る。
案の定そこには寝ている兄ちゃんが。

「こんなとこで寝たら風邪ひくぞ」
呆れながら呟いた。
テーブルを見れば数本のビールの空き缶。
これは溜息をつくしかないだろう。
「兄ちゃん」
軽く揺すりながら声をかける。
「・・・兄ちゃん」
何度呼びかけても、揺すっても、起きる気配なし。・・・どんだけ飲んだんだよ?
呆れながら、兄ちゃんを揺する腕に力を入れる。
「にぃーちゃーん」
声を大きくしてみても、乱暴に揺すってみても効果なし。

「本当に風邪ひくぞ?」
幸せそうに眠ってる顔を見下ろしながら、再び溜息をついた。

どうしたもんか。毛布を持ってきてかけるべきか。
それともベッドまで運ぶべきか。

オレが兄ちゃんを抱えてベッドに行くには、無理がある。
だけどソファで一晩眠らすのもなぁ・・・。そりゃ兄ちゃん家のだからふかふかで気持ちいいけど。一晩過ごすわけにはいかないだろう。

「・・・空・・」
「へっ!?」
考え込んでいたのにいきなり名前を呼ばれて思わずびくついた。
慌てて兄ちゃんを見れば幸せそうな笑顔が。

「・・・・寝言かよ・・・」
何っつー寝言言ってるんだよ。
思わず顔が赤くなる。人の名前呼んで、幸せそうに笑うなんて、反則だ。


「兄ちゃん」
もう一度呼びかけてみる。相変わらず聴こえてくるのは規則正しい吐息。
そんな姿を見ながら、少し微笑んで。軽く溜息をついて。

兄ちゃんの身体を起こして、右腕を肩にかけた。
「・・とっ・・・・」
何とか立ち上がって、バランスを取る。
これぐらいでよろけるなんてオレもまだまだ修行不足かなぁ・・・。
オレなんか兄ちゃんにいつも軽々持ち上げられてるのに。
そんなことを考えていると落ち込んでくるけど、今はそれどころじゃない。兄ちゃんをベッドまで運ぶのが先決だ。
とりあえず明日から特訓メニュー増やして頑張ろうかなぁなんて思いながら歩いていたら。

いきなり首に腕を回された。
「うわっ!」
思いがけない体重移動にバランスが崩れて、その場に押し倒されちまう。

「・・・ってぇー・・っ」
頭の下には手が回りこんでたから床に打ちつけることはなかったけど、・・・思いっきり背中打ったぞ・・・。
「・・・っ兄ちゃんっ!!」
抱きついてきてる人物の名前を思いっきり叫ぶ。
「起きてたのかよっ!!」
騙された悔しさからか、押し倒された悔しさからか、怒りながらじたばたと暴れるけれど、兄ちゃんは難なく受け止めて。
「・・・兄ちゃんの為に頑張ってる空、たまんねぇ・・・」
嬉しそうに耳元で囁くなっ!
本格的に暴れだしたけど、兄ちゃんには通用しない。やるだけ無駄かも・・・。
「う゛ー」
暴れてもこの状況が変わらないので、仕方なく動きを止めて唸った。

「・・・いつから起きてたんだよ」
「誰が寝てるって言った?」
嬉しそうにオレの顔を覗き込みながら兄ちゃんは言う。
何だよ、それっ!最初から寝てなかったってことかよっ!

悔しくてまた暴れだす。
「はーなーせーっ!!」
だけど相変わらず、押し倒されているこの状況は変わらなくて。
「・・・空」
囁かれた声の低さと、兄ちゃんの顔に近さに思わず驚いた。

「にいちゃ・・・」
呼びかけようとした声は兄ちゃんに飲み込まれる。
「んっ・・・」
舌を絡ませてくる兄ちゃんに、思わず必死になりながら答えた。
「ふっ・・・・はぁ・・っ」
抵抗したいところだけど、あまりの気持ちよさに沸騰しそうな頭ではそんなことも出来そうにない。
ぼんやりとしてくる頭ではただただ兄ちゃんに答えるのが精一杯。


解放されたときには暴れる力はおろか、一人で立つ力さえない。
潤んだ視界で兄ちゃんを見上げれば、真面目な顔でオレを見つめる兄ちゃんが。
「わりぃ、空。ベッドまで我慢する予定だったんだけど、・・・無理そうだわ」
・・・予定って何だよ。
結局オレはこうなる運命だったってか!?ってかオレがベッドに運ぶことまで兄ちゃんの計画通りだったのかよっ!?
「ちょ・・・っ兄ちゃん!?」
驚きと抗議の声をあげるけど、聞く耳持たずの兄ちゃんはオレの首筋に顔を落として。

「空がいけないんだぞー?」
「・・・オレ何もしてねぇし」
悪戯っぽく言ってくる兄ちゃんの声に、拗ねながら答える。
オレはこのままじゃ風邪ひくからただベッドに運ぼうとしただけで、何も悪いことなんかしてない。
「お前可愛すぎ」
「・・・・嬉くねぇよ」
どこに可愛いって言われて喜ぶ男がいるんだよ。しかもオレ大学生だぞ!?
かっこいいとは言われこそすれ、可愛いなんて以ての外だ。

「・・・んっ」
服の中に入り込んでくる暖かい手に思わず反応してしまう。

「オレのこと気遣って、オレの為に頑張ってる空君が、とてつもなく可愛く見えたのです」
人の親切心を何だと思ってるんだよっ!
「・・やぁっ」
叫びたいところだけどいきなり敏感なところを触られて、それも出来なくて。


軽く溜息。
「・・・・・・兄ちゃんの馬鹿」
呟きながら苦笑する。


まぁとりあえず、こんな遅くまで待っててくれた兄ちゃんに感謝いたしますか。



兄ちゃんの首に腕を絡ませて、オレからキスをした。
触れるだけのキスをして笑顔を向ける。

「ただいま、兄ちゃん」

「・・・おかえり、空」
兄ちゃんも嬉しそうに笑って。



そのままオレたちは再び深い口付けを交わした。




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(爆笑)(何)いやーん。思わず照れちまいます。(笑)
『テレビドラマ』と同時進行で。あっちはほのぼのなのにぃー。どうしてこっちはこんなことにぃー。(笑)
兄ちゃんの為に頑張る空が書きたかったのです。はい。
あ、あと押し倒す兄ちゃんも(笑)