夜が怖いと、思った。

毎晩夢に見る、アクゼリュスの光景。
みんな、みんな、俺の所為で死んじゃったんだ。俺の所為で、みんなの幸せが、壊されたんだ。
いつもその時の夢を見る。逃げることは出来ない、いや、しちゃいけない。
変わるって決めたんだ。

だけどやっぱり、夜が怖い。



眠れなくて、ベットに横たわっていた身体を起こした。
膝に手を当てて、脱力する。そして、溜息。
ちゃんと寝ていなければ、明日に響くだろう。ただでさえみんなには迷惑をかけているというのに、これ以上足は引っ張りたくない。
そう思ってはいるのだけど。

…風に当たってこようかな。

そう思って静かにベットから抜け出す。
男3人同じ部屋で使っているため、隣で寝ている2人が起きないように、音を立てないようにして部屋を出た。

昼の賑やかさとはうってかわって、静か過ぎる夜の街。
街灯と星に照らされながら、なんとか明るさを保ってはいるが。

この暗闇に、溶け込まれそうになる。


ああ、そういえば。昔、屋敷に戻った頃、というか俺が生まれたばっかりの頃、夜が怖いと言ってはガイの部屋に入り込んだっけ。
きっと、あの頃の俺も同じことを思ったのだろう。

「成長しないなぁ、俺」
呟いて、苦笑する。

少し歩いたところにあるベンチに座って、空を見る。
どうして夜の空は、こんなに黒いんだろう。
昼間はあんなに明るい、青色なのに。


「ルーク」
呼ばれて、驚いて身体がビクっと反応する。空から視線を下ろして前を向けば、歩み寄ってくる彼。
「ガイ……」
「どうしたんだよ、こんな夜中に」
言いながら、苦笑する。やっぱり気づかれたか、と俺も小さく苦笑。きっとジェイドも気づいたんだろうな。
起こしちゃったことに、罪悪感。

「ごめんな、起こしちゃって」
「別に、気にして無いけどよ」

ガイが、俺の前に到達する。目の前に立たれて、俺は視線を上げた。
ガイは困ったように笑う。

「眠れないのか?」
「……うん」
今更嘘をついたとしても、バレバレだろう。仕方ないので、素直に頷く。

「でも、もう大丈夫だよ。風に当たりたかっただけだし。すぐ部屋に帰るよ」
つき合わせてしまったは大変だと、俺は立ち上がろうとしたが、ガイが隣のスペースに座り込んだ。

「ガイ?」
驚いて声をあげるが、ガイは座り込んだまま。中腰になってしまった体勢を、仕方なく元に戻す。

「奇麗だな」
「へ?」
いきなり言われて、意味がわからなくてガイを見る。
ガイは、上を、空を見つめたまま続けた。

「星さ。結構輝いてるなぁ」
「あ?ああ」
今まで気づかなかったけれど、本当だ。星がたくさん輝いている。
どうしてだろう。今まで空は黒いと思っていたのに、星がこんなにも輝いて、とても明るいじゃないか。

何で気がつかなかったんだろうと悩んでいたらら、隣で小さく笑う気配がした。
「ガイ?」
「あ、悪い。何でもないんだ。ただちょっと、昔のこと思い出して」
「昔?」
あまりにも楽しそうに笑うから、気になって問いかけた。

「お前さ、昔はよく夜が怖いって泣きながら、俺のところに来たよな」
「…っ!そ、そうだけど!」
そんなに笑わなくたっていいじゃないか。
昔の、しかも大泣きしていたときのことを他人に思い出されるのは、恥ずかしい。
誤魔化すために、視線を空に向けた。

星の輝きが、眩しい。

「こんなに明るいのにな…。」
「何が?」
「夜の空。さっきまで気づかなかったけど、結構明るいのな」
「ああ…。そうなんだよ。夜って、思ってたより明るいものなんだよ」

そう言って笑いかけてくれる姿に懐かしさがこみ上げてくる。
ああ、昔もこんな風に笑ってくれたっけ。少しずつ、昔のことが思い出される。
安心させるような全てを包み込む、ガイの笑顔。この顔を見ると、なんだか大丈夫な気がしたんだ。

「夜が、なんで暗いかっていうと。それは星たちを見つけやすくしてくれるからであって。星はいつも光り輝いているんだけど、明るいとなかなか見つけにくいんだ。星のために夜は暗いんだよ」

ガイが、優しい声で言った。

「だけど大丈夫。暗くはなるけど、真っ暗ではない。だって、こんなに星が見守ってくれてるんだから」

懐かしい言葉に、頬が緩む。
「懐かしいなー」
「いつも言ってたもんな」
そう言いながら、2人で笑いあう。

「これ言ったら、お前すぐに泣き止んだよな」
「なんか安心したんだよ」
ガイの言葉に。それと、布団の中で抱きしめられながら窓の外を見たときに、視界に入った黄色。
夜の世界は黒くなんかないんだ、と思った。淡い黄色は、確かにここにある。

コツンと、ガイの肩に自分の頭を乗せた。
「ルーク?」
俺の名前を呼ぶガイの声が、くすぐったい。

「ガイ」
名前を呼んで、彼の存在を確かめる。大丈夫、傍に居る。感じる温もりは、ガイのもの。

「俺、頑張るよ」
変わるって誓ったんだ。一人でも多くの人を、救いたいんだ。
軽く目を瞑りながら、ガイ、というより、自分自身に言う。
「……ああ」

夜はやっぱりまだ少し怖いけれど、だけど大丈夫。星はいつでも輝いてるし、ガイが傍に居てくれる。


ガイの返事を聞いて、瞳を開けて、立ち上がる。
「さて、戻るか。ジェイドにも悪いしな」
きっとジェイドは起きているだろう。なんとなくだけど、そう思う。帰ってくるのを待っているのだろう。
冷たい人ぶってるけど、結構いい奴だよなぁと小さく笑う。

ガイもそう思ったのか、小さく笑いながら立ち上がった。

「そうだな。それにもういい時間だしな」

「もうそろそろ寝ないと明日に響くよな」
もう今日かな?なんて、思いながら笑えてる俺も、余裕が出てきたみたい。
今ならきっと、眠れるだろう。

大丈夫。近くにはガイがいるから。



瞬間、視界に入った筋に驚いて声をあげる。
「流れ星!」




ほら、こんなにも星たちは奇麗に輝いている。
隣でガイが、驚いた顔をしながらも、微笑んでいてくれている。



夜の空は、奇麗だった。








『夜の空』




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気持ちブルーなルークさん。