笑いながら、今日あった出来事を話す君。
俺の前では、いつも笑顔。
泣いたりはしない。辛い顔もしない。寂しいとも言わない。
いつも、眩しいくらいの笑顔。
「そしたら副部長が来て、もう本当やばかったんスよこの時!」
そしてそれに微笑みながら相槌を打つ俺。

「仁王先輩、俺のことおいて逃げてくし」
「ブン太先輩も気づいたらいないし」
「酷くないっスか!?」
大きく手を動かして、身体全体で俺に話しかけてくる赤也が、愛しくて、可愛くて。
それと同時に、少し寂しい。
赤也の話す楽しい現場に、いられないことがとても寂しい。

「幸村部長からも2人に言っといてくださいよ!」
「はは、今度仁王と丸井が来たら話しておくよ」

俺の病室で話すとき、俺たちはいつも笑顔。
いきなり俺が入院してしまって、赤也だって色々思うところはあるだろう。
ごめんね。俺が自分のことで手一杯で、君の涙を受け止めてあげることが出来なくて。
寂しがり屋な君を、一人にさせてごめんね。

「ねぇ、ぶちょー」
「何だい?」
「あー…、あの、…えと」
「…?何かあったのか?」
今まで笑顔で元気に話していたのに、いきなり言い難そうに口篭る赤也に、何か問題でもあったのかと思って問いかければ、罰の悪そうな顔が返ってきた。
何だ、また何か謝らなければならないことでも仕出かしたのだろうか。
この問題児が今までやってきた出来事を思い出して、なんだか面白くなってしまい、自然と頬が緩む。
彼が問題を起こして、真田に起こられるのはいつものこと。
今回は自分でもどうやら悪いと思っているらしい。

「怒らないから、言ってごらん?」
なるべくいいやすいようにと、出来るだけ優しい声を出してそう促せば、小さく呻いていた赤也が、俺に視線を合わせた。
「あの、」
「うん」
「…部長、」
「うん」
「……抱きついても、いいっスか!?」

言われた言葉が、予想外すぎて俺は驚きのあまり固まってしまった。
それと同時に、湧き上がる罪悪感。
「あの…」
「赤也」
俺が元気だった頃は、そんなこと聞かずにいきなり抱きついてきたのに。
逢えなくて寂しいと駄々をこねたこともあったのに。

自身の右手を伸ばし、赤也の腕を掴んで引っ張った。バランスを崩して俺に倒れてくる赤也を抱きしめた。
大丈夫、まだ俺には君を受け止める力がある。

「…誰かに、何か言われたの?」
「……真田副部長が、あんまり部長に負担をかけるなって」
「赤也は、負担なんかじゃないよ」
だから気を使わなくていいんだ。いつだって抱きついてくればいい。寂しいって言ってもいい。俺の前で泣いてもいい。

抱きしめながら赤也の背中を擦れば、赤也が頭を動かして俺の胸元に擦り付けた。
「へへ、幸村部長だー」
嬉しそうな声に、俺は涙が零れそうになる。

「…ごめん」
ごめん、ごめんね。
一人で無理をさせて、ごめん。傍に居られなくてごめん。
君の傍に居たいよ。君の涙は全て、受け止めたいのに。

震える声で同じ言葉を繰り返し呟けば、赤也が俺に回す腕に力を込めた。
「…俺、幸村部長のこと大好きっス」
「うん、」
「大丈夫っスよ」
何が、とは言わない。
多分、全て、大丈夫なのだと彼は言いたいのだろう。
赤也も、俺の病気も、全て。

「大丈夫、大丈夫です」
「赤也…」
「俺、待ってますから」
身体を離して、そう言う彼。

「だから、大丈夫ッスよ!」
目にいっぱい涙を溜めて、それでも笑顔を浮かべる彼が、愛しい。そしてそんな彼にとても勇気付けられる。
ごめんね、君の涙を受け止められない俺で、ごめん。
俺の目にも涙が浮かんできて、零れそうになるのを力を込めて堪えた。
ごめんね、今は君の優しさに甘えてもいいかな。

「…っ、…有難う」
離れた身体をまた引き寄せて抱きしめれば、今度は俺の背中をあやす様に赤也の手が動いた。
ごめんね、君の前では強くありたかったのに。

「部長、好き。大好き」
「俺も、赤也のこと、愛してるよ」

今だけ、君に縋らせて。







『甘えたがりな君を甘やかしたいのに』