そりゃあ溜息もつきたくなるっちゅーねん。
謙也くんって何か彼氏って感じやないってどういうことや。
俺だって精一杯頑張ったんやで。
なるべく気にかけるようにしたし、優しく接するようにした。
そりゃ、本当に好きだったかどうかは…今でも不明やけど。

「それがいけないんとちゃう?」
ひたすら俺が喋っていたところに、そう言われて、俺はちょっとだけ、落ち込んだ。
「せやかて、告白してきたんもあっちからやし、」
「それでなんとなく付き合っとったんやろ?」
「…そうやけど」
それでも俺は好きになるように努力はしたんやで。
なるべく電話もしたし、メールもしたし。

「お前付き合う前も後も俺に対する電話メールの量変わってへんやん」
「…いやまぁ彼女も大事やけど、友達だって大事やん」
「せやから、それがいけないんやろ」
…まぁ確かにそうやな。
彼女第一に出来なかったんやから、あっちだって不服だったのかもしれない。

「まぁそこまで好きやなかったっちゅー話や。しゃーないわ」
いきなりの別れの言葉にショックを受けて思わず屋上にユウジを連れてきて愚痴っていたが、少し話していたら気分は回復してきた。
まぁこんなにすぐ元気になれるのだから、そこまで落ち込んでるわけではないということだろう。
そもそも別に俺が好きで好きで付き合っていたわけではないのだ。
今でもあまり、相手のことを知らないし。

「…落ち着いて考えると、俺あいつに酷いことしたのかもしれんなぁ」
自分はちゃんと相手を知る努力をしたのだろうか。
相手に対して好きという感情がなかったのだから、一緒にいてもあまり付き合っているという感覚はなかったのかもしれない。
今なら分かる、最後のあいつの言葉。

確かに俺はあいつの彼氏やなかったわ。

「まぁしゃーないやん。謙也ええ奴やからまた次があるって」
「…思ってもないこと言うなや」
「ははは!それにしてもこんなヘタレに彼女がいたことが不思議でしゃーないわ!」
「笑うな!そしてヘタレ言うなや!」
「お前はヘタレ以外の何者でもないやん」
「ほんまに酷いやつやなぁ」

本当に酷いのは、ユウジやなくて、俺やけど。
ごめんな。最後の最後まで、あんまりお前に固執出来んねん。
別れを告げられたばかりなのに、最早ユウジと笑い合ってる俺でごめん。

「……当分彼女はいらんわ」
「…そか」
相手が、可哀想すぎるわ。

「まぁとりあえず今日どっか寄ってくか?」
「おでん食べたい」
「この時期におでんて!季節外れにも程があるやろ!」
「ええやんいつ食べても美味いもんは美味いっちゅーねん」
「何捻くれとんねん。今日はどこでも付き合ったるから元気だせや」
「…もう十分元気やわ。ユウジ有難うな」
「ええよ、別に。それより謙也が落ち込んどる方が気持ち悪いわ」

それを聞いて、思わず笑みが浮かんできた。
なんやかんやで心配してくれている、ユウジの優しさが嬉しい。

「ほんまに有難うな。俺ユウジのこと大好きやわー」

いつでも一緒に馬鹿やって、笑い合って、一緒にいて凄く楽しい。
自然に笑顔になれる関係って結構凄いんちゃう?

そう思って笑いながらユウジを見れば、驚いて開かれている目と視線が合う。
瞳は、少し潤んでいて、よく見れば頬も少し、紅い。

それを見て思わず心臓が高鳴った。
どないしたんユウジ!?どないしたん俺!!

「せやなっ!俺も謙也のこと好きやでっ!小春が一番やけど!」
俺が戸惑っていたら、ユウジはすぐにいつものように笑ってそう言った。
…いつものユウジやんな?特に変わったことはなく、いつも通り。
み、見間違いやろか。それとも俺は白昼夢でも見ていたのだろうか。
勘違いや勘違い。ユウジがあんなかわええ顔するわけないやん。見間違いや。
やっぱりまだ彼女に振られたのがショックなのかもしれんな。

「よっしゃ!今日は遊びまくるで!付き合えやユウジ!」
「しゃーないから付き合うたるわ」
「ほんま素直やないなーユウジは」
「うっさいわヘタレ」
「せやからヘタレ言うな言うとるやろ!」
「ヘタレ、阿呆、無神経、鈍感、スピード馬鹿、」
「それくらいで止めてください勘弁してくださいほんま堪忍してぇな」
「まぁそれが謙也やしなぁ」
「なんやねん。貶しとんのか?ええ加減泣くで!」
「貶してへんよ。これが謙也やっちゅー話や!」
「本人目の前にしてモノマネするなや!」



とりあえず今は、こうして笑い合える時間が、凄く幸せだとしみじみと思った。
ユウジを見るたびにドキドキしてしまうようになるのは、これからもう少し後のこと。






『その一瞬、時が止まったような気がした』




―――
謙←ユウ