おはようと、声をかけられた。 普段の俺なら、小春に声をかけられればそれはそれは天にも昇る勢いなのだが。 今日は、少しだけ、気まずい。 聡い彼のことだから、多分、俺の変化にもすぐ気がつくだろうと思ってはいたが、それでも正直あまりバレて欲しくはないのだ。 「お、はよ」 声を出して違和感に少し嫌悪を感じつつも、すぐに小春に笑顔を向けた。 けれど、瞬間目の前には訝しる彼。 「ユウくん声どないしたん。枯れてるやん」 流石や。流石俺の小春や。やっぱ気づいてもうた。そこまで酷く枯れているわけではないから、多分阿呆謙也とかになら気づかれない自信はあったのだが、やっぱり小春には敵わん。 でもこんな些細な変化に気づいてくれるなんてやっぱ愛やな。うん。俺も愛しとるで、小春。 「昨日モノマネの練習しとったらな、やりすぎてしもた」 ホンマ練習熱心やねーと小春は納得してくれたらしい。 ずっと考えていた言い訳がなんとか通用したことに、俺は安堵して肩をおろした。 ホンマはモノマネの練習で声が枯れたわけやない。それもこれも、全部あいつのせいや! 「あ、ユウジに小春、おはようさん」 部室のドアを開ければ、そこには左手に包帯を巻いて爽やかな笑顔を浮かべているエクスタ男がいた。 今日も相変わらず元気そうですね。俺は誰かさんのせいで声は枯れるし身体もダルいんですけどね。 一緒に朝を迎えたものの、用事があると言って俺より先に学校に行った蔵を軽く睨みつつ、自身のロッカーの前に立つ。 「何やユウジ、ご機嫌斜めやん?」 誰の所為だと思っとんねん!おどれの所為で今日の俺の体調は最悪なんやぞ! 「別に」 そっぽ向きながら答えて服を着替える。ああ、身体がダルい。睡眠時間を削られた所為で、思わず欠伸が出る。 「ユウくん、モノマネの練習いっぱいした所為で声枯れてるらしいで」 だから今日は一日喉大事にせなあかんね、と小春が蔵に向けて言う。 「小春…!別に大丈夫やで!なんともあらへんから…!」 「駄目やでユウくん。喉は大事にせな」 心配してくれるのは凄く嬉しい。小春に心配されるなんて嬉しすぎて俺、泣きそうや! けれど、声が枯れているのはモノマネの練習の所為ではなく、目の前にいるこの男の所為なので。 「ほんまや、ユウジ。声枯れとるやん」 誰の所為や思っとんのや!誰の!! そう思いながら蔵を睨みつけた。 ああもうなんか恥ずかしすぎて居たたまれない。喉は大丈夫やから、あんまり声枯れてること皆に言わんといて小春…! 「小春、小春が俺のこと心配してくれるのは凄く嬉しいし有り難いんやけど、ほんまに大丈夫やから、」 気にしなくていいんやで、皆には言わんといて。 大丈夫なん?って聞いてきた蔵を無視して小春にそう詰め寄れば、小春は真剣な顔をして言った。 ああもうほんまかっこええ小春はほんまにかっこええ。かっこええしかわええしほんま最高や小春。 「せやけどユウくん身体もダルそうやん?具合悪いんやったら無理せんと休んどき?」 あああ身体がダルいこともバレとる…!何ともないように振舞っていたのだがやっぱり小春の目は誤魔化せないらしい。 「…小春ぅー」 身体がダルい原因を思い出すと、恥ずかしすぎて。そしてそんな理由で心配をかけていることが申し訳なくて。 思わず涙目になりながら小春の名前を呼べば、小春は小さく苦笑して俺の頭を軽く撫でてくれた。 「蔵りん、あんま無理させたらあかんよ?」 「……っ!」 「あー、気をつけるわ」 小春の発言に驚いて言葉を失ってしまった俺と、苦笑しながら答える蔵。 バレてたんか蔵の所為だって分かってたんか驚きすぎて、声が出ない。 「…っこ、こは…!」 「じゃあアタシは先に行ってるから、ほんま無理したらあかんでユウくん」 そういい残して、着替え終わった小春は部室を出て行った。 残されたのは、蔵と俺の2人。 「小春に、バレてもうた…!」 「バレたというか、元々俺らが付き合ってるのは気づいとったみたいやしなぁ」 「な…!いつからや!?いつから気づかれてたんや!?」 「まぁ…割りと最初の方?」 「お前小春が気づいとるの知っとったんか!?」 「なんとなくは。小春やし隠しきれるとは思ってへんかったけど」 「あああああなんて顔して小春に逢えばええねん…!!」 蔵と付き合っているということがバレていたことも気まずいが、今日俺が身体がダルいのは蔵の所為だということに気づかれたのだ。 恥ずかしすぎる…! 「蔵の所為やで!おどれが昨日無駄に盛るから!!」 「ユウジが可愛すぎるのがあかんのやで。無駄やない全く無駄はない」 「蔵の阿呆ー!!」 「俺が悪かったから、あんま叫ばんどき。喉痛めるで」 「誰の所為や誰の!!」 「朝からこんなところで痴話喧嘩やめてもらえます。ほんまウザいっスわ」 ドアの方から声がして驚いて顔を向ければ、機嫌の悪そうな光と目が合う。 そうやったここは部室やった。しかももういい時間だから、誰が来てもおかしくない時間なのだ。 …て、うん?なんか、おかしな単語を聞いたような? 「いちゃつくんならどっか行ってください」 「すまんな、財前」 「申し訳ないとこれっぽっちも思っとらんでしょう部長」 って何普通に会話続けとんねん!! 「ちゃうで光!全くいちゃついてへん!!蔵とはなんともあらへんから!!」 そう詰め寄れば、光は眉間のしわを一層深くさせ、不機嫌な顔で蔵を睨んだ。 「ユウジさん声枯れとるやん。今日部活あるって分かってて何しとんねんアンタ」 「せやかて財前。昨日のユウジはほんまに可愛かったんやで。あれは我慢する方が無理や」 「うわっ何普通に惚気とるんですか。ほんまキモイッスわ」 まてまてまてまて!何で光も俺が声枯れてる理由が蔵だって分かるんや!? 何でバレとんねん!今まで必死に隠してきたのに! そして蔵は何を言っとるんや! ああもう! 「蔵の阿呆変態エクスタバカ!!もう知らんわ!!」 そう叫んで俺は部室を走り出た。部室の外で謙也が不思議そうな顔して声かけてきたけど知らん。今俺は誰にも関わりたくないんや! もう誰も信じられへん。何より恥ずかしすぎてほんまに死にそう。穴があったら入りたい。というかいっそ今から穴を掘りたい。潜りたい。引きこもりたい。 今は誰とも顔を合わせられへん。 ほんまこれからどないしたらええねん…!! 『助けて神様!』 「小春ぅー!!」 「はいはい、どうしたのユウくん」 「恥ずかしすぎて死んでしまいそうやー!」 「せやけど、ユウくん、蔵りんと付き合ってるの結構バレバレやったで?」 「…え、ええー!?」 |