次のお笑いライブで使う小物を作っていたら、どうやら俺は相当集中していたらしい。
「ユーウージっ」
「うわっ」
言いながら後ろから抱き付いてきた蔵に本気で驚いた。
蔵が近づいてきたことにも、後ろに回りこんでいたことにも全く気づかなかった。

「なんやねん。宿題やってたんやろ」
「そんなのずいぶん前に終わっとるわ。ユウジが終わるの待っとったんやで」
「それは…ごめん」
全然気づいていなかった。
今日は蔵の家にお泊りに来ているというのに、蔵を放っといて道具作りをしていたとは、申し訳ない。
蔵も宿題があると言っていたので、始めさせて貰っていたのだが、思っていたよりも集中してしまったらしい。

「いや、それはいいんやけどな。だけどそろそろやから」
「そろそろ?」
「うん」

蔵の抱きしめてくる腕の力が強くなる。
裁縫道具をテーブルに置いて、蔵の顔を見ようとするけれど、腕の力が強くて振り返ることが出来ない。

「どないしたん?」
「んー…」
「…っ!」
問い掛ければ気だるげな声が返ってきた。と思えば、いきなり首筋を吸われた。
「ちょ、何しとんねん…!」
「ユウジ、ええ匂いやなぁ」
「この、変態!」
「ユウジに対してだけやで?」
言いながら首を舐められて、思わず身体が震えてしまう。
「離せ…っ!」
蔵の腕を解こうと試みるが、びくともしない。同じ男なのに、歯が立たなくて悔しい。
「ユウジ、」
艶っぽい声で囁かれて、また身体が震える。首筋にかかる吐息が、くすぐったい。
思わず俯いて、疼き始めた感情を堪えていたら、顎を掴まれて蔵の方に顔を向けられた。
恥ずかしくて、思わず目が潤む。
優しく微笑んだ蔵は、とても綺麗。

「誕生日おめでとう。ユウジ」
「な、……んっ」
言うと同時に口付けられて、俺は蔵にしがみ付く事しか出来ない。

顔が離れて、蔵の顔を見れば、凄く凄く嬉しそうな顔をしていた。

「…俺の誕生日やのに、何でそんなに嬉しそうな顔しとんねん」
恥ずかしくて仕方がなくて、とりあえず小さくそう突っ込んだら、より一層嬉しそうに微笑まれて言われた。
「ユウジが生まれてきた日やで?嬉しくてしゃーないに決まっとるやん」
「…どうしてそう、」
恥ずかしいことをけろっと言えるのだ。言われるこっちの身にもなって欲しい。
火照った顔を見られるのも恥ずかしくて、視線を逸らせば時計が目に入る。

0:03
デジタル時計が示していたのはこの時刻で。
さっき蔵が言っとったそろそろというのは、0時になるのがそろそろだったのか、とか、今が0時ということは小物作りに2時間は集中してしまっていたのか、とか色んな考えが駆け巡る。

「蔵、」
「うん?」
「来年の誕生日も、一緒におってな?」
「当たり前やろ」

自信満々の笑顔で、蔵が微笑む。
「来年なんていわず、じいさんになっても一番に祝ったるわ」


言われた言葉が嬉しくて、思わず照れ笑いを浮かべたら、蔵がまた近づいてきたので俺は受け入れるために目を閉じた。



俺も、生まれてきて蔵に出会えて、幸せやで!






『ずっと一緒にいられたらいいね』